失われた習慣
その異変は、突然訪れた――――――――――。
「しんにい、今日もぱかおはねてるの?」
「うん……」
「さいきんずっとだよね」
「そうだね……」
ぱかおの様子がおかしいのだ。
元気に走り回っていた頃が嘘のように、最近は眠っていることが多い。
「病気かな……?」
「理玖さんに診てもらったけど、わかんないって……」
「……ぱかお、大丈夫だよね。死んだりしないよね……?」
「……大丈夫だよ。起きた時は、ご飯をたくさん食べてるって晴久さんも言ってた。今までよりも、すごくよく食べるんだって……。そんなに元気なんだから、死ぬはずないよ」
心の最後の言葉は、美海ではなく自分に言い聞かせているようだった。
理玖はあくまでも、人間に対する医学の知識しか持ち合わせていない。
さすがにアルパカ、その中でも稀少なアルジャンアルパガについては分からないのだ。
だが、動物病院に連れて行くわけにもいかない。
ぱかおのような珍しい動物を飼っている事実が外部に知られてしまうのはまずいからだ。
「ぱかおとあそびたいなぁ……」
「……きっとすぐに、前みたいに遊べるようになるよ。……そろそろ行こう。遅刻する」
「うん……。ぱかお、行ってきます……」
「……行ってきます」
二人はそう言うと、自室を出て行く。
扉を閉める瞬間、心は部屋の中にいるぱかおを見た。
ぱかおはベッドの上で眠り込んでいて、ぴくりとも動かない。
(もう、何日目になるかな……。ぱかおが、玄関まで見送ってくれなくなったの……)
毎日行われていた習慣は、ある日突然失われた。
そのことに寂しさを覚えながら、心は学校へと向かうのだった――――――――――。