決着
勝負は、ラストスパートで決まった。
(ダメだ! 引き離される…!)
そこまでは恵輔にやや先行を許してはいたものの、ほぼ並走のかたちを保てていた。
だが、残り一周で恵輔がかけたスパートに、全くついていくことができなかったのだ。
(完敗だ……)
ゴールした蒼一朗は、その場に倒れ込み空を見上げる。
呼吸を整えている彼の視界に、どこか残念そうな恵輔の姿が写った。
「どうしたんすか? せっかく勝ったのに、浮かない顔してるっすね」
「いや、勝てたのは勿論嬉しいよ。でもかなり速く走れたから、もしかしたら僕の1500メートルの自己タイムを更新できてたかもしれないなぁって思って……。ちゃんと計っておけばよかった……」
そう言いながら肩を落とす恵輔に、蒼一朗は笑いが込み上げてくるのを抑えられない。
「ふっ、あはははは! 部長さんって大概、陸上バカなんすね」
「それ、よく言われるよ。自覚はないんだけど、他人に言われるほどかなぁ……」
「俺、そういうの嫌いじゃないっすよ。……これから、よろしくお願いします」
蒼一朗は立ち上がると恵輔の前に行き、頭を下げた。
その様子を見た恵輔は、笑顔でそれに応える。
「任務外でも体を動かすから慣れるまでは大変だと思うけど、君ならできると僕は信じてます。柏木くん、これからよろしくね」
こうして蒼一朗は、駅伝部への入部を決めたのだった。