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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第三十一話 ライラックの香りを求めて
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今日の夕飯は何がいいですか?

 晴久が単独任務を終えてから、あっという間に半月ほどが経っていた。

 これまでと変わらず、晴久は家事に精を出している。


(ふぅ……。きりのいいところまで終わりましたし、少し休憩しましょう)


 キッチンでお茶を淹れ、リビングへ行く。

 そして、何気なくテーブルの上にあった新聞をめくってみると――――――――――。

 晴久の視線は、とある記事へと釘付けになった。


(……桜庭さん、ありがとうございます)


 そこには、廉太郎が海洋保全事業に乗り出したという内容が書かれていた。

 これこそが、晴久の願いだったのだ。






「では、僕から一つお願いがあるのですが……」

「ああ、何かな」

「詳しいことは話せませんが、シレーナルムは海で採れる物なんです。海が汚れれば、それこそ絶滅してしまうかもしれません。ですから、その……。海を守ってもらえませんか?」

「海を守る、か……」

「めちゃくちゃなことを言ってるのは自分でも分かるんですが……」

「……本当にそれでいいんだね?」

「……はい! よろしくお願いします」

「……わかった。とても君らしい願いだ。その願い、必ず叶えよう」

「ありがとうございます!」






 晴久が廉太郎に望んだのは、海を守ることだけだった。

 自分のためではなく、他人のために考え行動できる。

 こんな晴久だからこそ、廉太郎の追い求める味に辿り着くことができたのかもしれない。


『とある若者に影響され、自然を、そして自然界に生息する動植物を守りたいと強く思った』


 記事を読み進めていくと、廉太郎がこの事業を始めたきっかけについて触れられていた。

 名前こそ書かれていないが、これは間違いなく晴久のことだ。

 今後は海だけではなく、幅広く自然を守る活動にも着手していきたいとも書かれている。


(桜庭さん、おばあちゃんの味を忘れないでいてくれてありがとうございます。クレアさん、おじいちゃんのために涙を流してくれてありがとうございます。死んでしまったおじいちゃんとおばあちゃんとの繋がりをまた感じられる日がくるなんて、思ってませんでした。お二人と出逢えて、僕は本当に嬉しかったです)


 晴久が記事を読み終えた時、一色邸の扉が開く音がした。


(誰か帰ってきましたね。今日の夕飯について、意見を貰いましょう)


 新聞を静かに閉じると、玄関へと向かっていく。

 そして、帰ってきたばかりの人物へと声をかけた。


「おかえりなさい。今日の夕飯は、何がいいですか?」


 その笑顔はいつも通り穏やかだが、今回の任務を終えて少しだけ男らしくなっている。

 彼は今日も、作るのだ。

 自分にしか作れない、寄り添うような優しさに溢れた料理を――――――――――。

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