寄り添うような優しい味を
廉太郎は涙を流しながら、一口ずつ丁寧に味わう。
その姿はまるで、大切な想い出を噛み締めているかのようだ。
涙が止まる頃には、皿はすっかり空になっていた。
「遠野くん、ありがとう……! まさかまた、この味に出逢えるなんて……!」
「喜んでいただけてよかったです」
「それにしても、どうやってこの味、そして輝きを……?」
「このスープには、どこの市場にも出回っていない特別な食材が入っています」
「特別な食材……?」
「はい。とある海で採れる、シレーナルムという物です」
「シレーナルム……。聞いたことのない名だ……」
「そうだと思います。その名前は、僕の祖母が勝手に名付けて呼んでいたものなんです」
「君の、おばあ様かい……?」
「はい。……僕の祖母の名前は、遠野絢子と言います」
晴久の言葉を聞くと、廉太郎は驚きで目を見開いた。
「遠野、絢子……。絢子さんと、言うんだね……!?」
「……はい。祖母が残してくれたレシピに、この食材についての記述がありました。ですので、恐らく桜庭さんにスープを振る舞ったのは僕の祖母で間違いないと思います」
「そうか……。絢子さんのお孫さんだったのか……。君の料理の師匠は絢子さんかな?」
「はい、そうです。祖母には、色々なことを教えてもらいました」
廉太郎は晴久の顔をまじまじと見ると、何かを納得したかのように頷いた。
「確かに、どことなく面影がある気がするよ。それに、初めて君の料理を口にした時の既視感……。あれは、私の勘違いではなかったんだね」
「僕と祖母の料理は、そんなに似ていますか……?」
「ああ、よく似ている。……だが、完璧に同じではないよ。絢子さんの料理は、全てを包み込むような優しさで満ちていた。だけど君の料理は、一緒に寄り添ってくれるような優しさで溢れている。私は、君の料理も大好きだ」
「あ、ありがとうございます……!」
二人の間に、柔らかな空気が流れる。
「遠野くん、すまないがお代わりを貰ってもいいだろうか」
「はい、わかりました。すぐにお持ちしますね」
晴久は一度厨房へ戻ると、新しい皿にスープをよそった。
そして、すぐに廉太郎の待つ部屋へと向かう。
一杯目は、大切な想い出を噛み締めているようだった。
だが二杯目は、晴久の優しさを感じながら味わっているように見えたのだ――――――――――。




