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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第三十一話 ライラックの香りを求めて
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寄り添うような優しい味を

 廉太郎は涙を流しながら、一口ずつ丁寧に味わう。

 その姿はまるで、大切な想い出を噛み締めているかのようだ。

 涙が止まる頃には、皿はすっかり空になっていた。


「遠野くん、ありがとう……! まさかまた、この味に出逢えるなんて……!」

「喜んでいただけてよかったです」

「それにしても、どうやってこの味、そして輝きを……?」

「このスープには、どこの市場にも出回っていない特別な食材が入っています」

「特別な食材……?」

「はい。とある海で採れる、シレーナルムという物です」

「シレーナルム……。聞いたことのない名だ……」

「そうだと思います。その名前は、僕の祖母が勝手に名付けて呼んでいたものなんです」

「君の、おばあ様かい……?」

「はい。……僕の祖母の名前は、遠野絢子と言います」


 晴久の言葉を聞くと、廉太郎は驚きで目を見開いた。


「遠野、絢子……。絢子さんと、言うんだね……!?」

「……はい。祖母が残してくれたレシピに、この食材についての記述がありました。ですので、恐らく桜庭さんにスープを振る舞ったのは僕の祖母で間違いないと思います」

「そうか……。絢子さんのお孫さんだったのか……。君の料理の師匠は絢子さんかな?」

「はい、そうです。祖母には、色々なことを教えてもらいました」


 廉太郎は晴久の顔をまじまじと見ると、何かを納得したかのように頷いた。


「確かに、どことなく面影がある気がするよ。それに、初めて君の料理を口にした時の既視感……。あれは、私の勘違いではなかったんだね」

「僕と祖母の料理は、そんなに似ていますか……?」

「ああ、よく似ている。……だが、完璧に同じではないよ。絢子さんの料理は、全てを包み込むような優しさで満ちていた。だけど君の料理は、一緒に寄り添ってくれるような優しさで溢れている。私は、君の料理も大好きだ」

「あ、ありがとうございます……!」


 二人の間に、柔らかな空気が流れる。


「遠野くん、すまないがお代わりを貰ってもいいだろうか」

「はい、わかりました。すぐにお持ちしますね」


 晴久は一度厨房へ戻ると、新しい皿にスープをよそった。

 そして、すぐに廉太郎の待つ部屋へと向かう。

 一杯目は、大切な想い出を噛み締めているようだった。

 だが二杯目は、晴久の優しさを感じながら味わっているように見えたのだ――――――――――。

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