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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第三十一話 ライラックの香りを求めて
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優しく温かな雫

 翌日、晴久は見事に体調を崩してしまった。

 海に落ちて濡れたことにより、風邪を引いてしまったのだ。

 二日後になんとか回復すると、早速クレアの涙を使用した料理に取り掛かる。

 一刻も無駄にしたくないため、この日は王宮へ泊まり込みである。


(できました……!)


 スープが完成したのは、廉太郎との約束の期日だった。

 晴久はそれを皿によそると、廉太郎が待つ部屋に向かう。

 そして、控えめに扉をノックした。


「……入りなさい」

「失礼します」


 部屋の中へと通された晴久は、いつも通り丁寧な仕草で皿をテーブルへと置いた。


「お待たせしました」

「……いや、いいんだ」


 そう言った廉太郎の顔は、最後に会った日よりもやつれているように見えた。

 諦めるとは言ったものの、憧憬の味が見つからなかったことに落胆しているのだろう。


(おじいちゃん、おばあちゃん、力を貸してください。どうかもう一度、この方に笑顔を)


 そんなことを思いながら、晴久は皿にかかっていたクロッシュを取る。

 そこには、以前出した品とは比べ物にならないほどの輝きを放つスープがあった。


「こ、この輝き……! 絢子さんが私に出してくれた物と比べても遜色がない……!」

「どうぞ、召し上がってください」

「ああ、いただくよ……!」


 廉太郎の顔に、生気が戻ってきた。

 そして、スプーンを使いスープを口へと運んだ瞬間――――――――――。


「この、味だ……。私が求めていたのはこの味だよ、遠野くん……!」


 廉太郎の瞳から、自然と涙が零れる。

 だが、以前のような冷たく悲しい雫ではない。

 それは、漸く追い求めていた物に辿り着けた感動で溢れた、優しく温かい涙だった――――――――――。

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