優しく温かな雫
翌日、晴久は見事に体調を崩してしまった。
海に落ちて濡れたことにより、風邪を引いてしまったのだ。
二日後になんとか回復すると、早速クレアの涙を使用した料理に取り掛かる。
一刻も無駄にしたくないため、この日は王宮へ泊まり込みである。
(できました……!)
スープが完成したのは、廉太郎との約束の期日だった。
晴久はそれを皿によそると、廉太郎が待つ部屋に向かう。
そして、控えめに扉をノックした。
「……入りなさい」
「失礼します」
部屋の中へと通された晴久は、いつも通り丁寧な仕草で皿をテーブルへと置いた。
「お待たせしました」
「……いや、いいんだ」
そう言った廉太郎の顔は、最後に会った日よりもやつれているように見えた。
諦めるとは言ったものの、憧憬の味が見つからなかったことに落胆しているのだろう。
(おじいちゃん、おばあちゃん、力を貸してください。どうかもう一度、この方に笑顔を)
そんなことを思いながら、晴久は皿にかかっていたクロッシュを取る。
そこには、以前出した品とは比べ物にならないほどの輝きを放つスープがあった。
「こ、この輝き……! 絢子さんが私に出してくれた物と比べても遜色がない……!」
「どうぞ、召し上がってください」
「ああ、いただくよ……!」
廉太郎の顔に、生気が戻ってきた。
そして、スプーンを使いスープを口へと運んだ瞬間――――――――――。
「この、味だ……。私が求めていたのはこの味だよ、遠野くん……!」
廉太郎の瞳から、自然と涙が零れる。
だが、以前のような冷たく悲しい雫ではない。
それは、漸く追い求めていた物に辿り着けた感動で溢れた、優しく温かい涙だった――――――――――。