温もりを感じながらお別れを
「……ふぅ、泣いた泣いた! 一生分じゃないかってくらい泣いた気がする!」
涙が止まったクレアの目は、赤くなってしまっている。
その様子は、なんとも痛々しいものだった。
「ハルヒサ、はい、これ! ちゃーんと有効活用してよね!」
「……ありがとうございます」
そう言うと、クレアは涙でいっぱいになった小瓶を晴久に渡す。
晴久はそれを受け取ると、丁重にポケットへと仕舞った。
「もっとトモヒサの話を聞きたいけど、そろそろ帰んなきゃダメだよね」
「あっ、そういえば……! 僕が来てから、どれくらいの時間が経ちましたか……!? 戻らないと、みなさんが心配してるかもしれません……」
「ここは地上とは時間の流れが違うから、そんなに心配しなくてもへーきだよ。ハルヒサが海に落ちて、まだ一分も経たないくらいじゃないかな?」
「そ、そうなんですか……!?」
「うん! でも、あんまり長く一緒にいると別れが辛くなるから、そろそろ海上まで送るね。ハルヒサ、アタシの好みじゃないけど優しくてイイ奴だし!」
「あ、ありがとうございます……?」
「……だから、頑張んなよね」
「え……?」
「さっき話してくれた女の人のこと、好きなんでしょ?」
クレアが言っているのは、透花のことだった。
彼女について話す晴久の雰囲気から、何かを感じ取ったのだろう。
晴久は顔を真っ赤にすると、それを否定する。
「ぼ、僕は別に……! ただ、透花さんは僕にとって大切な女性というだけで……!」
「隠してもムダ! アタシ、そういうのには敏感なんだから! でも、もっともーっと頑張んないと、選んでもらえないよ? トウカの周りには、魅力的な男が多いみたいだし!」
「みなさんが魅力的なのは、僕が一番分かってます。だから、僕が選ばれるわけないですよ」
その言葉に、卑屈さは感じられない。
なぜなら、晴久は本当にそう思っているからである。
彼が好きなのは、透花だけではない。
彼女が率いる、仲間たち全員のことも大好きなのだ。
「そんなのわかんないじゃん! 選んでもらえる可能性があるなら、努力するべきだってアタシは思う! ハルヒサみたいに優しい男のこと、好きになる女は絶対いるよ!」
「クレアさん……。ありがとうございます」
晴久は、照れたように微笑んだ。
クレアが嘘を吐くような性格じゃないということは、話してみてよく分かっている。
そんな彼女の真っ直ぐな言葉が、とても嬉しいのだ。
「よーし! じゃあ、行くよー!」
「クレアさん、本当にありがとうございました」
「こちらこそ! 色々ありがと! ……また、会えたらいーね」
晴久が返事をする前に、クレアによって部屋の外へと引っ張り出されてしまった。
そこはもう、いつも通りの海の中だ。
クレアの部屋のように、呼吸をすることはできない。
息が苦しくなった晴久の意識は、そのまま失われていった。
自分の手を引くクレアの温もりを感じながら――――――――――。