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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第三十一話 ライラックの香りを求めて
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温もりを感じながらお別れを

「……ふぅ、泣いた泣いた! 一生分じゃないかってくらい泣いた気がする!」


 涙が止まったクレアの目は、赤くなってしまっている。

 その様子は、なんとも痛々しいものだった。


「ハルヒサ、はい、これ! ちゃーんと有効活用してよね!」

「……ありがとうございます」


 そう言うと、クレアは涙でいっぱいになった小瓶を晴久に渡す。

 晴久はそれを受け取ると、丁重にポケットへと仕舞った。


「もっとトモヒサの話を聞きたいけど、そろそろ帰んなきゃダメだよね」

「あっ、そういえば……! 僕が来てから、どれくらいの時間が経ちましたか……!? 戻らないと、みなさんが心配してるかもしれません……」

「ここは地上とは時間の流れが違うから、そんなに心配しなくてもへーきだよ。ハルヒサが海に落ちて、まだ一分も経たないくらいじゃないかな?」

「そ、そうなんですか……!?」

「うん! でも、あんまり長く一緒にいると別れが辛くなるから、そろそろ海上まで送るね。ハルヒサ、アタシの好みじゃないけど優しくてイイ奴だし!」

「あ、ありがとうございます……?」

「……だから、頑張んなよね」

「え……?」

「さっき話してくれた女の人のこと、好きなんでしょ?」


 クレアが言っているのは、透花のことだった。

 彼女について話す晴久の雰囲気から、何かを感じ取ったのだろう。

 晴久は顔を真っ赤にすると、それを否定する。


「ぼ、僕は別に……! ただ、透花さんは僕にとって大切な女性というだけで……!」

「隠してもムダ! アタシ、そういうのには敏感なんだから! でも、もっともーっと頑張んないと、選んでもらえないよ? トウカの周りには、魅力的な男が多いみたいだし!」

「みなさんが魅力的なのは、僕が一番分かってます。だから、僕が選ばれるわけないですよ」


 その言葉に、卑屈さは感じられない。

 なぜなら、晴久は本当にそう思っているからである。

 彼が好きなのは、透花だけではない。

 彼女が率いる、仲間たち全員のことも大好きなのだ。


「そんなのわかんないじゃん! 選んでもらえる可能性があるなら、努力するべきだってアタシは思う! ハルヒサみたいに優しい男のこと、好きになる女は絶対いるよ!」

「クレアさん……。ありがとうございます」


 晴久は、照れたように微笑んだ。

 クレアが嘘を吐くような性格じゃないということは、話してみてよく分かっている。

 そんな彼女の真っ直ぐな言葉が、とても嬉しいのだ。


「よーし! じゃあ、行くよー!」

「クレアさん、本当にありがとうございました」

「こちらこそ! 色々ありがと! ……また、会えたらいーね」


 晴久が返事をする前に、クレアによって部屋の外へと引っ張り出されてしまった。

 そこはもう、いつも通りの海の中だ。

 クレアの部屋のように、呼吸をすることはできない。

 息が苦しくなった晴久の意識は、そのまま失われていった。

 自分の手を引くクレアの温もりを感じながら――――――――――。

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