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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第三十一話 ライラックの香りを求めて
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悲しくも美しいもの

「そっかぁ……。アタシはずっと、もう死んじゃった人を待ってたんだね……」


 そう言ったクレアの瞳からは、ぽろぽろと涙が零れ出していた。

 その涙は、この世の物とは思えないほどの美しい輝きを放っている。

 晴久はとっさに、ポケットに入っていたハンカチを差し出す。

 クレアは力なく笑いながら、それを受け取るのを拒否した。


「……ハルヒサ、違うでしょ」

「え……?」

「ハンカチじゃ、涙なんてぜーんぶ染み込んじゃうじゃん。アタシの涙が欲しいんだよね? それを入れるための容器、出しなよ……」

「でも……! 自分の祖父のことを想って流してくれた涙を貰うなんて出来ません……!」

「……ハルヒサは優しいね。でも、だいじょぶだから……」


 クレアは晴久のポケットに手を突っ込むと、そこから小瓶を取り出した。

 人魚の涙を採集するために持っていた物だ。


「涙は、いくらでもあげるからさ……。一つだけ、お願いしてもいい……?」

「僕に出来ることなら、なんでも言ってください……!」

「……じゃあ、トモヒサの楽しい話してくんないかな? 多分このままじゃ、小瓶がいっぱいになるまで泣いても、涙止まんないと思うんだ……。だから……」

「……わかりました。優しくて頼もしい、自慢のおじいちゃんだったんです。いくら話しても時間が足りないくらい、素敵なエピソードはたくさんありますよ」

「……ふふっ。楽しみ、だなぁ……」


 それから晴久は、智久に関する話をした。

 彼が獲ってきた材料を作って、自分が初めて料理をした時のこと。

 泳げなかった自分に、根気よく泳ぎを教えてくれたこと。

 体調がいい日に、一緒に海に潜って魚を見たこと。

 クレアの涙は、最初は止まる様子を見せなかった。

 だが、晴久の話を聞く度に少しずつその量は減っていく。

 彼女が泣き終える頃には、小瓶はキラキラと光る涙でいっぱいになっていたのだった――――――――――。

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