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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第三十一話 ライラックの香りを求めて
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さっきまでの笑顔が嘘みたいだ

「もー! ハルヒサの話、全然泣けないよー!」

「ご、ごめんなさい……」

「だって楽しすぎるんだもん! アタシ、笑っちゃう!」


 晴久はクレアに、今の人間の暮らしや自分の大切な仲間たちのことを話した。

 クレアは始終にこにこと、とても楽しそうにそれを聞いている。

 泣く素振りは、一切見受けられなかった。


「それにしてもすごいねー! あるぱか? だっけ? もふもふの子! アタシも触ってみたいなー! 海の中には、もふもふなんかないし……」

「確かに海の中には、動物みたいな柔らかさのものはありませんよね。この辺の海じゃ、シロクマもいないでしょうし……」

「あ~あ、残念。海藻やクラゲがふわふわしてることはあるけど、あれとは違うんだろうなぁ……。それにしても、動物と話せるシンって子はすごいね! まるでアタシたちみたい!」

「クレアさんたちみたい、ですか?」

「うん! アタシたち人魚も、海の中の生物とはおしゃべりできるんだよー!」


 そう言うとクレアは、晴久には聞き慣れない言葉を話し出した。

 どうやら、部屋の周りを泳いでいる魚たちに挨拶をしているようだ。

 透明な壁越しに、その声は届いたのだろう。

 魚たちは、まるで踊っているかのような仕草を見せる。


「すごいですね! かわいいです」

「でっしょー!? あの子たち、アタシの大事な友達なんだ! 人魚はちょっと特別な存在だから、他のみんなとは違うことができちゃったりするんだよね~! ハルヒサがここにいて息ができるのも、アタシのおかげだよ!」

「そうだったんですね。不思議だなぁとは思っていたんです」


 海底に足が付いているのだから、ここはそれなりに深い場所なのだろう。

 だが、クレアの部屋は透明な壁のようなもので囲まれており、水も入り込んでこなければ息が苦しくなることもなかった。


「ハルヒサには、友達がいっぱいいるんだね! 話を聞いた感じだと、アタシはソウイチロウって人が好みだな! 頼りがいのある、男らしい男が好きなの!」

「確かに、おじいちゃんはそういう男性でしたね」

「だよねだよね! そういえば、トモヒサは今何してるの?」

「あ……」

「もうおじいちゃんだけど、あいつのことだから元気なんだろうなー! まだ海に潜ってたりして!? ねえねえハルヒサ、次は家族の話を聞かせてよ!」


 クレアの無邪気な笑顔が、晴久に向けられる。

 晴久は、祖父がもうこの世にはいないことを伝えるかどうか迷った。

 伝えれば、彼女の笑顔は間違いなく曇ってしまうだろう。


(僕が言わなきゃ、クレアさんはおじいちゃんの死を知らずにいられます……。でもそれって、すごく悲しいことじゃないですか……? 大切な人の死を知ることがないまま、このまま生き続けていくなんて……)


 晴久は覚悟を決めると、重い口を開いた。


「おじいちゃんは数年前に、交通事故で死にました……」

「え……? 今、トモヒサが死んだって言ったの……? アタシの聞き間違い……?」

「……聞き間違いじゃありません。おじいちゃんはもう、この世にはいません……!」

「嘘でしょ……」


 クレアの表情から、一瞬で笑顔が消える。

 それを見ていることしかできない自分を、晴久はふがいなく感じるのだった――――――――――。

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