特別であることに変わりはない
二人の間に、重苦しい沈黙が流れる。
クレアを励ましたいが、どのように声をかければいいのかわからないのだ。
「……トモヒサはもう、私のことなんて覚えてないよね」
クレアが、寂しそうにぽつりと言葉を零す。
「そ、そんなことありません……!」
「え……?」
「おじいちゃんは、クレアさんのことを忘れてなんかないですよ……!」
晴久の脳裏には、幼い頃のとある記憶が蘇ってきていた。
「僕が小さい頃、話してくれたんです。海で溺れていたところを人魚に助けてもらったって」
「ほんとにトモヒサ、そんなこと言ってたの……?」
「はい。てっきり、子どもの僕を喜ばせるための作り話だと思ってました。でも、違ったんですね。その人魚って、クレアさんのことですよね」
「うん……! それ、アタシ…! そっかぁ、トモヒサ、アタシのこと覚えてたんだ……!」
「おじいちゃん、とても嬉しそうに話してくれましたよ。その人魚は、自分の恩人だって」
クレアの頬が、次第に綻んでいく。
「……恩人かぁ。ほんとは奥さんになりたかったんだけど、まぁいっか! 恩人も、トモヒサにとって特別な存在だもんね! ハルヒサ、教えてくれてありがと!」
そう言ったクレアの顔は、笑顔で満たされていた――――――――――。