朗らかな人
「部長さん、すんません」
「どうしたの、柏木くん。もしかして、入部してくれる気になった?」
蒼一朗は、練習を終えた恵輔に声をかけた。
「まぁ、なんつーかそんな感じなんですけど……」
「ほんと!?」
「……一つ条件があります」
「条件? なんだい、言ってごらん」
「……俺と、1500メートルで勝負してもらえませんか?」
「勝負?」
「はい。俺が勝ったら、さっき言ったように入部は断らせてください」
「それで、僕が勝ったら入部してくれるってことかな?」
「……うす」
「いいよ。やろうやろう!」
恵輔は朗らかに笑う。
その反応に、蒼一朗は戸惑ってしまった。
「……余裕っすね」
「そんなことないよ。僕が負けたら入部してくれないんだから、責任重大だなって思ってる」
「その割には、軽いっつーか元気っつーか……」
「だって、走るのって楽しいだろう? 君とならいい勝負ができそうだし。僕、こう見えても負けず嫌いなんだ。君に入部もしてもらいたいし。……負けないよ?」
「……俺もっすよ」
蒼一朗は、この部の雰囲気がいい理由がわかった気がした。
駅伝部の部長だというのにどこか柔らかな、この男の人徳故なのだろう。
二人の勝負が、今、始まる――――――――――。