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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第三十一話 ライラックの香りを求めて
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五十年越しの失恋

「ほんとごめんね! 懐かしい気配がしたから、またあいつが来たのかと思ってさ! ちょっと波を起こして連れてきたら、全然違うニンゲンなんだもん! ビックリしたよ~!」


 クレアは、晴久がここにいる経緯を説明してくれた。

 どうやら彼は、人違いで連れてこられたようだ。


「あーあ、絶対にトモヒサの気配だと思ったのに。なんで間違っちゃったんだろ?」

「トモヒサ、ですか……?」

「うん! アタシの唯一のニンゲンの友達! そんで、だーいすきな男だよ!!」


 晴久は、クレアの言う名前に聞き覚えがあった。


「……人違いかもしれないですが、僕の祖父も智久というんです」

「ふーん、そうなんだ。でもトモヒサは、あんたと同じくらいの年だよ」

「それって、何年前くらいの話でしょうか?」

「そうだなー。五十年以上は前かなー!」

「……人間は、五十年もすればおじいちゃんになってしまいますよ」

「……そうじゃん! 自分と同じように考えてたよ! ニンゲンは年取るの早いんだ!」

「人魚は違うんですか?」

「人魚は、ニンゲンに比べれば長寿だからね~。アタシだって、もう百年は生きてるし」

「ひゃっ、百年ですか……!?」

「ニンゲンだったらもうババアっしょ? でも、人魚じゃまだまだピチピチなんだ!」


 クレアはそう言うと、元気よくピースサインをする。

 その姿は、どう見ても高校生くらいだ。


「トモヒサの孫なら、私が間違ったのも納得いく……。って、ちょっと待って! 孫!?」

「は、はい……」

「孫ってことは、あいつは結婚して子どもができて、そのまた子どもがあんたってこと!?」

「そ、そうなりますね……」


 クレアは晴久の肩を掴むと、前後に揺らし始めた。

 女性だというのに、すごい力だ。

 晴久は、返事をするだけで精一杯である。


「えー!? アタシ、ずっとトモヒサのこと待ってたのに! 次に会ったら結婚してって言うつもりで、いろんな男からの求婚も断ってきたのにー!!!」

「祖父とは、結婚の約束をされてたんですか?」

「してないよ! してないけど! でもアタシは、トモヒサが大好きだったの!」


 クレアは晴久の肩から手を放すと、うなだれてしまう。

 大好きな人が結婚していたという事実を、すぐには受け入れることができないようだ。


「でも、そうだよねー……。約束してたわけじゃないし、アタシは人魚であいつはニンゲンだもん。結婚なんてできるわけないのに、どうして待ってたんだろ……」


 そう言ったクレアの声は、先程までとは違い悲痛なものだった。

 あまりの切なさに、二人の関係を深くは知らない晴久も胸が締め付けられるのを感じた――――――――――。

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