波間に落ちる
蒼一朗が海に潜ってから、既に一時間ほどが経っている。
状況を報告するために時々船に戻って来るのだが、人魚が見つかる気配はなかった。
さすがの蒼一朗にも疲れが見える。
「少し休憩しようか」
「僕、ハチミツのレモン漬けを作ってきました。蒼一朗さん、どうぞ」
「サンキュー、ハル。……うめー! 疲れがとれるわ」
「それならよかったです。柊平さんもいかがですか?」
「……私も貰ってしまっていいのか?」
「はい、勿論です。たくさん作ってきましたから。透花さんもどうぞ」
「ありがとう、ハルくん。心くんとぱかおがいたら喜びそうだね」
「そうですね。二人ともハチミツが大好きですから」
「……あいつらがいたら、俺らの分は残んねーだろうな」
「……同感だ」
四人が和やかに談笑をしていた、その時だった。
彼らが乗っている船を、突如大きな波が襲ったのだ。
どこかで発生した波が押し寄せてきたのではない。
本当に突然、その場に波が出来たという表現が正しいだろう。
それ故に、この事態に対処できた者は一人もいなかった。
「ハル……!」
「遠野……!」
「ハルくん……!」
「あ……」
波により船が揺れ、足元が不安定になる。
晴久はそのまま、海に投げ出されてしまった――――――――――。