表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第三十一話 ライラックの香りを求めて
325/780

優先されるべき想い

 屋敷に戻った晴久は、すぐに自室へと駆け込んだ。

 そして、一冊のノートを捲っていく。


(確か、最後の方に……。あ、ありました!)


 目当てのページに辿り着くと、それを丹念に読み込んだ。


(桜庭さんが探してる食材は、きっとこれです……! 入手方法は……)


 そこの項目に目を通した瞬間、何とも言えない表情を浮かべる。


(そうですよね……。だから僕は、今まで忘れていたんです……。……でもおばあちゃんは、嘘を吐くような人じゃありません。夢みたいな話でも、僕は信じます)


 晴久が手にしているノートは、祖母が彼に残してくれたレシピ集だった。

 王宮に赴く前日に読んでいたものである。

 これには、レシピだけでなく稀少な食材についての情報も記されていたのだ。

 晴久はもちろん、このノートを何度も読み返している。

 どうして、ここに至るまでに時間がかかってしまったのだろうか。

 それは、この食材の入手方法に関係がある。

 あまりにも現実離れした手段であるため、結び付けて考えることができなかったのだ。

 そんな晴久の記憶を呼び起こしたのは、廉太郎が零した一言である。


(……僕のおばあちゃんの名前は、絢子です。桜庭さんが昔食べた料理というのは、きっとおばあちゃんが作ったものなんです……! 桜庭さんがその料理を食べた地域は僕の故郷とは違ったので、全く気が付きませんでした……)


 晴久の祖母は、絢子という名前だった。

 廉太郎に確認してはいないが、恐らく同一人物だろう。

 何らかの理由で、絢子は廉太郎のいる街に来ていた。

 そこで偶然振る舞った料理が、廉太郎の心を今なお掴んで放さないのだ。

 何度か食材の情報が記されているページを読んだ後、晴久は静かにノートを閉じた。


(早速、食材を調達しに行きましょう。おとぎ話みたいでも、僕はおばあちゃんを信じます)


 そう決意したものの、すぐに頭を抱えることになる。


(でも、どうすれば……。僕だけじゃ、この場所に辿り着けるかどうかもわかりません……。だからといって、皆さんに頼るのは……。これは、僕が受けた仕事なのに……)


 悶々としていると、晴久の部屋の扉がノックされた。


「はい……?」

「あ、ハルくん。大丈夫? 慌てて帰ってきたみたいだから気になっちゃって」


 扉の外から聞こえたのは、透花の声だった。

 晴久は扉を開けると、自室に透花を招き入れる。


「騒がしくしてごめんなさい……。大丈夫です……」

「……どうかしたの? 私でよければ、話を聞くよ」


 いつもよりも元気がない晴久の様子を見て、透花が優しく声をかける。

 晴久は、今回のことを話すかどうか迷った。

 やはり、受けた仕事を自分の力でやり遂げたい想いがあったからだ。


(……でも、僕には時間がありません。一週間以内に食材を調達して、スープを完成させなければならないんです。僕よりも、廉太郎さんの気持ち優先に決まってます……!)


 そう思い直した晴久は、口を開く。


「あの、透花さん……! ぜひ、皆さんに力を貸してもらいたいことがあるんですが……!」


 一生懸命話す晴久を、透花は嬉しそうな表情で見つめるのだった――――――――――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ