まるで、満天の星空のような
「……発光する植物?」
「はい。実は……」
屋敷に戻った晴久が訪れたのは、理玖の部屋だった。
晴久は、廉太郎が何気なく零した言葉にヒントがあるのではないかと考えたのだ。
廉太郎はその料理を、輝かんばかりに美しいと言っていた。
(それは、もしかしたら見間違いじゃなかったのかもしれません…)
味の改良は、これまでも散々行ってきた。
しかし、廉太郎の求めるものには及ばない。
行き詰まった晴久は視点を変え、見た目の美しさにもアプローチすることにしたようだ。
そこで、誰よりも植物に詳しい理玖の部屋に来たのである。
晴久の説明を、理玖は静かに聞いていた。
「……というわけです。ですので、もし市場に出回らないような珍しい植物があれば、教えてもらいたいのですが……。そもそも、発光する植物なんてあるんでしょうか……?」
「……光を発するもの自体は、ないこともない」
「本当ですか!?」
「……ちょっと待ってて」
そう言うと理玖は、部屋の中から小瓶を三つ持ってきた。
「……全部、薬に使うために細かくしてあるけど。まずはこれ、クレルドリュールという花だ。次はこっち、ルミエルドソレール。この二つはそれぞれ、月光と太陽光を当てることによって光り輝く。……あげるから、後で試してみるといい」
「ありがとうございます……!」
「最後は、このサンティエールだ」
「すごいです……! こんなに小さいのに光ってます……!」
「これは、特に何かの力を借りなくても勝手に光ってくれる。君の求める条件に、一番合っていると思う。……でも、他の二つと違って香りが強い」
理玖は、サンティエールが入っている小瓶の蓋を開く。
すると、なんとも形容しがたい香りが部屋中に充満した。
理玖はすぐに、蓋を閉じる。
「こ、これは強烈ですね……!」
「……だから、料理に適するとは思えない。これもあげるよ」
「本当にありがとうございます……! ちなみにこの三つって、食べられますか?」
「……特に毒はないと思うけど、食べたという話を聞いたこともないよ」
「そうですか……。自分で食べて、確かめてみるしかなさそうですね。桜庭さんに食べてもらって、何か起こったら困りますから」
「……君も体が弱いんだから、止めた方がいいと思うけど。適任がいるだろう」
「あ、ぱかおくん、ですか……?」
「……ああ」
ぱかおは、美味しい食材を嗅ぎ分けることができるのだ。
彼に頼めば、この三つが食べられるかそうでないか分かるかもしれない。
「じゃあ、早速お願いしてみます。理玖さん、本当にありがとうございました」
「……別に。頑張って」
「……はい! では、失礼します」
晴久は、丁寧に一礼をしてから部屋を出て行く。
その夜一色邸には、サンティエールの香りを嗅いだぱかおの悲鳴が木霊したそうだ――――――――――。