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一歩進んで二歩下がる
晴久はまず、食材集めから始めた。
魚介から野菜、調味料まで、廉太郎がその料理を食べたという港町の物を取り寄せる。
一つの材料でも、品種の違う数種類を試してみるという徹底ぶりだ。
そして試作を繰り返し、完成したものを廉太郎に振る舞ったのだが――――――――――。
「……この間よりも、更に近付いた気がするよ」
「本当ですか……!?」
「……ああ。でも、近付いたことで違いがより顕著になってしまったように思う」
「そうですか……」
何度作っても、廉太郎が納得のいく味には仕上げられない。
晴久は、思い悩んだ。
(これ以上何かを加えれば、味のバランスが崩れてしまいます……。どうすれば……)
その時、廉太郎が口にしていた言葉を思い出す。
(……桜庭さんはああ言っていましたが、やっぱり料理は見た目も大切ですよね)
何かを思い付いた晴久は厨房の片付けをすると、足早に一色邸へと帰っていくのであった――――――――――。