表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第三十一話 ライラックの香りを求めて
320/780

憧憬の味

「……そこで、私は出会ったんだ。あの、輝かんばかりに美しいスープに……」


 廉太郎の話を聞いていた晴久は、あることに気付いた。


(気難しい方って聞いてたから心配だったんですが、全然そんなことないです。桜庭さんは、ただ自分の思い出の味を追い求めてるだけなんですね)


 皺の刻まれた顔を綻ばせながら、廉太郎は嬉々として語る。

 彼は決して、一流シェフたちの味を拒否したわけではない。

 どの品も美味だが、自分の思い出の味ではないとはっきり言っていただけなのだ。

 それがいつの間にか、気難しい人物だという噂になり独り歩きしていたようだ。


(どうにか、その思い出の味をもう一度食べてもらいたいものですが……)


 まるで少年のような笑顔を浮かべながら語る廉太郎を見て、晴久は強くそう思った。


「……私がそのスープを食べた時の話はこれで終わりだ。何か質問はあるかね?」

「では、いくつか聞いても大丈夫ですか?」

「構わないよ。なんでも聞きなさい」

「ありがとうございます。まずは……」


 晴久は、廉太郎がその料理を食べた時の状況を事細かに聞いた。

 季節や材料、見た目や香りなど、多くの情報を得る。


「基本的には、君に作ってもらった魚介入りトマトスープがベースだよ。だけど、あれではない……。あれも確かに美味しいんだが、何かが足りないんだ……」

「そうなんですね……」


 晴久は情報を、ノートに記していく。


「そういえば先程、輝かんばかりに美しいスープだったと言っていましたが……」

「……ああ。当時の私にはそう見えたという話だよ。本当に輝いていたわけではないと思う。もう何十年も昔の話だから、どんどん記憶があやふやになってきているんだ……」

「……それは、悲しいですね」

「でも、あの味だけは絶対に忘れないさ。死ぬまでにもう一度、なんとか食べたいものだよ」


 そう言って切なく笑う廉太郎を見ると、晴久は胸が苦しくなった。


「お、思い出の味に少しでも近付けるように精一杯お手伝いさせてもらいます!」

「ああ、よろしく頼むよ。経費は全てこちら持ちだから、好きにやりなさい」


 こうして晴久は、廉太郎の求める料理の再現に挑戦することになったのだった――――――――――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ