32/780
それは二番目に美しい
設備などの紹介を一通り終えると、恵輔は自分の練習に戻ってしまった。
練習時間が終わるまで、一人で自由に見ていてくれということらしい。
(暇だな……)
見学をしても、特に入部したいという気持ちにはならなかった。
彼が入部を渋った大きな理由は、団体競技が嫌いだからである。
基本的に自分以外の力を信じていないので、他人のタイムで結果に差が出る駅伝のような競技は最も苦手とするところなのだ。
親切に案内をしてもらったので、最後までは見ていくようだが。
蒼一朗が何気なく視線を向けると、恵輔が走っている姿が目に入る。
(フォーム、綺麗だな……)
それは、彼が人生で見た中で二番目に美しいフォームだった。
綺麗なだけではなくスピードもあるその走りは、どこか透花に似ている。
恵輔の走りを見ながら、蒼一朗は一つの決意をしたのだった。