軍の食堂にて
「ハルちゃん、今日はありがとねぇ!」
「ハルちゃんが来てくれて、本当に助かったよ!」
「お役に立てて何よりです。僕でよかったら、いつでも呼んでください」
晴久はこの日、軍本部の食堂にいた。
入隊式の日以来、体調がよく時間も合えば時々手伝いに来ているのだ。
「それにしても、今日は人が少ないですね」
そう言うと晴久は、厨房内を見渡す。
そこには、いつもの半分ほどのスタッフしかいない。
「……実は、いない人たちは王宮の厨房に入ってるんだ」
「王宮の、ですか?」
「ああ。今ね、王様の父君の古い友人が王宮を訪ねて来てるんだよ。その人は、有名な美食家でさ。彼をもてなすために、たくさんの料理人が腕を揮ってるらしいんだけど……」
「……随分、気難しい男らしくてねぇ。王宮の料理人たちの料理が気に入らないって話だよ」
「そうなんですか……!? 王宮のシェフたちは、みなさん一流の方ばかりなのに……」
「なんでも、昔食べた料理を再現してくれる料理人を探すために王都まで来たそうだ。だけど、どの料理人が作ったものも違うんだって。何度作り直しても、全く首を縦に振らないらしいよ。王様も父君もその人には世話になったから、願いを叶えてあげたいって言ってねぇ。シェフたちに、いつもの仕事よりも友人のための料理に時間を使うように命令したんだ」
「その分、王宮の通常業務が手薄になっちまうからね。ここで働いてたみんなが駆り出されたってわけさ。全く、こっちはとんだ迷惑だよ」
「そうだったんですね」
「というわけで、最近は毎日人手不足なのさ!」
「ハルちゃん、よかったらまた手伝ってくれると助かるよ!」
「はい、わかりました。また来るので、その時はよろしくお願いします」
晴久は控えめに微笑むと、持参していたエプロンを外す。
少しの間スタッフの女性たちと雑談をしてから、一色邸に帰っていくのであった――――――――――。