たまには逆もいいじゃないか
琉生の誘拐事件が起こってから、今日で一週間だ。
結果として、透花が叱責を受けることはなかった。
処分を求める声もあったが、琉生は無事に戻ってきている。
取り逃がした者がいるとはいえ、犯人の一部を捕まえることにも成功しているのだ。
その上本来の護衛班は、何の役目も果たせなかったときている。
一色隊から琉生たちを保護したという連絡があった時点で、手がかりすら掴めていなかったことが明らかになってしまったのだ。
一番の功労者である透花が叱責される理由は、どこにもないのである。
特に処分が下らないことが決定すると、柊平は表情に出さずともほっとしていた。
透花が批難される理由を作ってしまった自分を、未だに責めていたからだ。
柊平と同様に、蒼一朗も事件以降少し気を落としていた。
しかし、日常を送るにつれて徐々に気持ちの整理がついてきたのだろう。
今では、いつも通りの彼に戻っている。
「琉生様、こんにちは」
「おぉ! 一色殿! まちわびておったぞ!」
透花はこの日、王宮にいる琉生の元を訪れていた。
「お元気そうで何よりです」
「うむ! 元気がありあまっておるぞ! 外出できないからのう……」
誘拐事件以来、琉生は外出を禁じられてしまったのだ。
さすがに数週間や数か月も続かないとは思うが、琉生にとっては退屈で仕方なかった。
「……その後、みうややまとのようすはどうじゃ?」
「二人とも、今日は朝ご飯をお代わりしていました。それくらい元気ですよ」
「それならよい。余がまた遠野殿のご飯を食べることができるのは、いつになるのか……」
琉生はそう言うと、ため息を吐いた。
外出を禁止されているので、一色邸に遊びに行くこともできない。
つまり、大好物である晴久の料理もしばらくは食べられないのだ。
そんな琉生の様子を見ながら、透花は悪戯な笑みを浮かべる。
「実は、琉生様にお届け物がございます」
「なんじゃ?」
「遠野が作ったスイートポテトです」
「……なにっ!?」
透花が取り出したスイートポテトを見ると、琉生は目を輝かせた。
ちなみに以前のオムライスと同様、こちらも晴久が監視の目に耐えながら作ったものだ。
あのような事件があったので、生誕祭の時よりも周囲からの視線が厳しかったらしい。
「今、これに合うお茶を淹れているところです。すぐに遠野自身も来ますよ」
「おおお……! 一色殿には、本当に礼を言ってばかりじゃな! おんに着る!」
「喜んでいただけて何よりです。外出禁止は退屈でしょうが、その間は私たちがこちらを訪ねさせていただきますね。王様からも、お許しをいただきました」
「そうなのか!? それは楽しみじゃ!!」
琉生の表情に、先程までのアンニュイさはない。
その笑顔は、キラキラと輝いている。
ここで、琉生の部屋の扉がノックされた。
控えめな叩き方だったため、晴久に間違いないだろう。
「まっておれ! 今開けるからのう!」
琉生は、すぐさま扉に駆け寄っていく。
そんな彼を見つめる透花の表情は、どこまでも慈愛に満ちているのだった――――――――――。