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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第三十話 誕生日にはポインセチアを添えて
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終幕

 透花と柊平が倉庫に戻ると、犯人の男たちは蒼一朗によって柱に括り付けられていた。

 これでは、簡単に逃げ出すことはできないだろう。


「蒼一朗さん、お待たせ」

「おう。……他の仲間はどうした?」

「……すまない。取り逃した」

「……あっ、そう」


 蒼一朗の打撃を腹部に受けた男は、未だに意識を取り戻していないようだ。

 透花は、もう一人の方に近付いていく。


「あなたにいくつか聞きたいことがあるのだけれど、いいかな?」

「……へっ。俺がそれに答えるとでも思ってんのかよ?」

「ううん。でも、こちらが質問しても損はないからね」

「けっ……。いいぜ。聞くだけ聞いてやるよ」

「では、一つ目。あなたたちの組織の目的は何?」


 いきなりの核心を突く質問に、男は驚きで目を見開いた。


「てめえ……。俺たちのことをどこまで知っていやがる!?」

「今のところは、特に何も。あなたたちが子どもを攫っていることくらいしか知らないよ。攫った子どもたちを、どうしているの?」

「……答える義理はねえな」

「そう。組織の規模や、本拠地を聞いても教えてくれないよね」

「……たりめーだろ。俺は、仲間を売るようなことはしねえ」

「じゃあ、質問を変えるね。その腕の刺青は、組織の一員である証かな」


 男の腕には、刺青が彫られていた。

 隣で気を失っている男にも、同様のものが見られる。


「……それくらいなら教えてやるよ。答えはイエスだ。珍しい形だからな。これを見たら、ほぼ組織の人間だと思って間違いないぜ」

「……そう」


 透花は、その刺青に見覚えがあった。

 だが、それを心の中に仕舞うと話を続ける。


「蒼一朗さん、聞きたいことがあったらどうぞ」

「……いいのか?」

「うん。でも、殴ったりしないでね」

「……わーってるよ」


 蒼一朗は緊張した面持ちで男に近付くと、口を開いた。


「……お前たちの組織は、殺しもすんのか?」

「……基本的にはしねえよ。子どもを攫うだけだ」

「基本的にはっつーことは、する場合もあんだな……?」

「……そうだな。邪魔する奴は、始末する場合もあっ……」


 ここで、男は次の言葉を紡げなくなる。

 蒼一朗が、男の胸倉を掴んだからだった。


「……蒼一朗さん」

「……わかってる。殴りはしねえ」

「ぐっ……。あんた、うちの組織に家族でも殺されたのか……?」


 胸倉を掴まれたまま言った男を、蒼一朗が睨む。

 瞳とは、時に言葉よりも雄弁なものだ。


「そっか……。そりゃあ、運が悪かったとしか言いようがねえな……」

「……なんだと?」

「……さっきも言ったように、基本的に殺しはしない。子どもを攫うよりも遥かにリスクがでかいし、そこまでの技量を持った奴は少ないからな。現に俺は、殺しはしたことないぜ」

「………………………………」

「……でも、何人かいるんだよ。人を殺すことに精通してる奴らが。あんたの親は、そいつに当たっちまったんだろ。残念だっ……」

「……黙れ。もう、これ以上喋るんじゃねえ」


 再び声を遮ると、蒼一朗は先程よりもきつく男の胸倉を締め上げた。

 外からは、軍用車のサイレンの音が聞こえてくる。


「……蒼一朗さん、そこまで。時間切れだよ。ここからは、私たちの仕事じゃない」

「……どういうことだよ」

「私たちの仕事は、犯人を捕まえて琉生様の安全を確保するまで。それ以降のことは、軍本部に任せよう。そこで尋問を受ければ、更なる情報を話すかもしれない」

「くそっ……!」


 蒼一朗は悔しそうに言うと、男から手を放した。

 様々な感情がごちゃ混ぜになっているのだろう。

 彼の拳は、小刻みに震えていた。

 そのような状況の中で、倉庫の扉が開かれる。

 どうやら、軍本部の者たちが到着したようだ。


「ご苦労様です。琉生様は隊車で保護しています。犯人は、こちらの二名です」

「ふん……。連れて行くぞ」

「はっ!」


 やって来たのは、王宮で透花と言い争いになった責任者の男だった。

 だが、今回は完璧に透花と一色隊のお手柄である。

 それを分かっているからこそ何も言わず、部下と一緒に犯人を連れて倉庫を出て行く。


「じゃあ、私たちも帰ろうか」

「……はい」

「……ああ」


 透花たち三人も、誰もいなくなった倉庫を出る。

 こうして、誘拐事件は幕を閉じたのだった――――――――――。

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