誘い
翌日、蒼一朗が指定されて向かった先にあったのはとあるグラウンドだった。
数十人の男たちが一定のペースで、ひたすらトラック内を走り続けている。
蒼一朗の姿に気付いた一人の男が、集団を離れてこちらにやって来た。
「こんにちは。柏木蒼一朗くん」
「はあ、どうも……」
「今日からよろしく頼むね」
「……今日からって、どういうことすか?」
「あれ、おかしいな。一色隊長から何も聞いてない?」
「……うす」
何も聞かされていない蒼一朗に、男は状況を説明し始めた。
ここは軍本部が所有するグラウンドであり、今走っているのは駅伝部の面子だそうだ。
年に一度行われる都市対抗駅伝のために日々練習を積んでいるのだが、近年は思うように結果を残せていない。
そのため隊を問わずに優秀な人間に声をかけ、戦力の補強を行っている。
駅伝部の部長であるというこの男は先日の適性試験を見に来ており、蒼一朗の力に目をつけたというわけだ。
「……というわけなんだ」
「なるほど。事情はわかりました。でも俺駅伝はちょっと……」
入部を渋る様子の蒼一朗に、男は困ったような笑みを浮かべる。
「今すぐ決めなくてもいいからさ、せめて見学くらいしていかないかい?」
「……わかりました」
蒼一朗の返事を聞くと、男は爽やかな笑顔で片手を差し出した。
「改めて、部長の久米恵輔です。よろしくね」
「柏木蒼一朗っす。今日はよろしくお願いします」
蒼一朗も片手を差し出し、握手に応じる。
こうして蒼一朗は、駅伝部の見学をすることになったのだった。