始動
「では、早速みんなを追いましょう。湊人くん」
「はいはい。今日の透花さんは人遣いが荒いね」
文句を言いながら、湊人は再びパソコンに向かい始める。
すると、画面上に地図が映し出された。
その中を、赤い点が移動している。
「透花さん、出たよ」
「ありがとう。よかった。まだ気付かれていないみたいだね」
「それなりのスピードで移動してるね。車かな?」
「そうだろうね。このくらいなら、飛ばせば追い付けるはず」
皆を置き去りにしたまま、二人は会話を重ねていく。
その様子を不思議そうに眺める他の隊員たちに、透花が説明をした。
「これは、現在のみんなの位置だよ。何かあった時のために、美海ちゃんに発信機を付けさせてもらいました。もちろん、本人は知らないからね」
「あんたって、ほんと用意周到だよな……」
「褒め言葉として受け取っておくね、蒼一朗さん」
「……っていうか、そんなものがあったんならこんな話し合いなんかせずにさっさと追えばよかったんじゃねーの?」
「現場に着いてから、我々の意思の疎通ができていないせいで混乱するといけないからね。これからの方針を決めるために、敢えて話し合いの場を持たせてもらいました。誘拐事件なので、すぐにみんなに危害が加えられることもないと思ったし。では、個々に指示を出します。まずは、柊平さん。みんなを追うにあたって、車の運転を頼めるかな」
「かしこまりました」
「次に、蒼一朗さんと理玖。二人も、私と一緒に来てください」
「りょーかい」
「なんで僕まで……」
まさか、犯人を追跡するグループになるとは思っていなかったのだろう。
理玖は、分かりやすく眉間に皺を寄せた。
「子どもたちは人質として、丁重に扱ってもらえるとは思う。でも、軽い怪我をしたり、極度の緊張状態で衰弱しているかもしれない。……ここまで言えば、わかるよね」
「……はあ。わかった」
子どもたちの体をフォローするために、医者である理玖が選ばれたのだ。
理玖は、ため息を吐きながら頷いた。
「湊人くんにはナビゲーションをお願いします。私と一緒に来るかここに残るかは、自分で決めてもらって大丈夫だよ。離れていても、湊人くんなら正確にこなしてくれると思うし」
「本当は安全な場所で指示だけ出すっていうのが理想なんだけど、今回は一緒に行くよ。実際に見ることによって、新しいデータを解析出来るかもしれないし」
「じゃあ、湊人くんは一緒に来てください」
次に透花は、まだ名前を呼ばれていない四人に目を向ける。
「ハルくん、虹太くん、心くん、颯くんはこの場で待機ね」
「え……」
その言葉を聞き、心が小さく声を漏らした。
透花にああ言われたものの、子ども達がいなくなったことに責任を感じているのだろう。
「透花さん、僕も行きたい……」
「……ごめんね、心くん。これ以上車に乗れないので、今回はここで待っていてくれるかな」
「でも……」
「美海ちゃんは、ちゃんと私たちが連れて帰るから。約束するよ」
「……ん、わかった。よろしくお願いします……」
透花は、自分からした約束を破るような人間ではない。
それを知っている心は、こくんと頷いた。
皆と一緒に行けば、足手纏いになる可能性があることもきちんとわかっているのだ。
「待機組のリーダーは虹太くんにお願いします。私がいなくなったことを聞かれたら、適当に誤魔化しておいてもらえるかな」
「りょーかい☆ この椎名虹太にお任せあれ~!」
「頼もしいよ。何かあった時のために、常に四人で行動することを心がけて欲しいです。それから、こっちでわかったことがあったらその都度連絡をもらえたらありがたいかな」
「はーい♪」
「わかりました……!」
「……うん」
「うっす!」
「では、これから子ども達の捜索に入ります。みんな、よろしくね!」
透花の声をきっかけに、一色隊は二手に分かれた。
虹太を含む待機組は、パーティー会場に留まる。
透花たち追跡組は、犯人を追うために車に乗り込んだのだった――――――――――。