白いドレスを翻して
「……隊長、ご挨拶の途中で申し訳ありません。実は琉生様が……」
「わかりました。すぐに向かいます」
琉生が行方不明になったという情報は、柊平を通してすぐに透花の耳にも伝わった。
透花は招待客たちへの挨拶を切り上げ、虹太と柊平と共に王の元へと向かう。
「遅れてしまい申し訳ありません。部下から、琉生様がいなくなられたと聞きました」
「おぉ! 一色殿! よくぞ来てくださった!」
「琉生は、一体どこへ行ってしまったのでしょう……!?」
「王様、王妃様。心中お察しいたします。お二人はこちらでお待ちください。我々が、必ず琉生様を連れて戻りますので」
「その必要はない」
透花の柔らかな声を遮ったのは、会場の警備の責任者だった。
この男も軍人であり、透花ほどではないが高い地位に就く者だ。
「この件は、私たち護衛班に一任してもらう。そちらの隊は、既に失態を犯しているからな」
「……どういうことでしょうか?」
「なんだ、聞いていないのか? 貴殿の隊員は、バルコニーに出る前の王子に会ったそうだ。そして、そのまま見送ったというじゃないか。妹や弟と一緒にな! その時にしっかりと護衛をしていれば、このような事態には陥らなかったものを……!」
男の言葉を聞き、心たち三人の様子を見た透花はすぐさま事情を理解した。
心は俯き、晴久は肩を震わせ、理玖までもがバツの悪そうな表情を浮かべている。
「……そうですか。大変失礼いたしました」
「わかればよい。この場は私が仕切らせてもらう。貴殿の隊は、ここで待機だ」
「指揮権についてはご自由にどうぞ。ですが、待機という申し出は拒否させていただきます」
「なんだと……?」
「話を聞く限り、私の部下の弟妹もいなくなっているようですね。彼らを放っておくことはできません。私たちは、独自で彼らの捜索に当たります」
「それは認められん。指揮官である私の命令を聞け」
「……いい加減、口を慎みなさい」
透花の纏う空気が一変した。
いつもの優しく柔らかな雰囲気は消え、刺すような冷たさになる。
「あなたは私に命令できる立場にありません。そんなこともわからないのですか?」
透花は軍人として、この男よりも数段偉いのだ。
よって、彼の命令を聞く道理などあるはずもなかった。
透花の言葉を聞き、男は悔しそうに唇を噛み締める。
「くっ……!」
「……これ以上話しても時間の無駄です。先程の宣言通り、私たちは独自に動きます」
透花は男に言い切ると、王と王妃に向き直る。
いつの間にか、普段の温かな彼女に戻っていた。
「……王様、王妃様。琉生様はご無事ですよ。必ず連れて戻りますので、一色隊が単独で動く許可をいただけますでしょうか?」
「勿論だ! そもそも、わしが琉生に護衛の者をつけてさえいれば……!」
「……あなた、あまりご自身を責めないでくださいな。一色殿、頼みましたよ」
「はっ、承りました」
透花は恭しく一礼をすると、白のドレスを翻しながら隊員たちとその場を離れる。
その背中は華奢なのに凛々しく、頼もしく見えるのだった――――――――――。