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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第三十話 誕生日にはポインセチアを添えて
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そして彼らは四人だけに

 時は、二十分ほど過去に遡る。

 見知らぬ少年と歩いている琉生に、声をかけた人物たちがいた。


「あ、るいくん!」

「………………………………!!」

「お誕生日おめでとう……」

「おぉ! そなたたち! 今日は来てくれてかんしゃするぞ!」


 美海と大和と心である。

 理玖と晴久の姿は見当たらず、彼らは三人だけだった。


「みう、すてきなかみかざりをつけておるな!」

「ありがとう! これ、とうかねえからもらったんだよ!」

「ほう! さすがは一色殿じゃ! センスがよい!」


 美海は、以前透花から譲り受けたバレッタを付けていた。

 大人っぽいデザインだが、おめかしをした今日の美海にはよく似合っている。


「はやく行こう……。こっち……」


 談笑を始めてしまった琉生を、よく思わない者がいた。

 月を見ると言って琉生を連れ出した、謎の少年である。

 彼は、どこか焦ったような表情を浮かべながら琉生の手を引く。


「るいくん、その子はだれ?」

「そういえば、まだ名前を聞いておらんかったのう。そなた、名はなんと言うんじゃ?」

「ばるこにーまで行ったら教えるから、はやく来て……」

「そ、そのようにひっぱるでない……! 月もバルコニーもにげんじゃろうに……!」


 少年は、強引に琉生を連れて行こうとする。

 その様子を特に不思議がることもなく、美海は明るく声をかけた。


「ばるこにーっていうところに行くの?」

「そうじゃ! そこで、この者と月を見る予定なのじゃ!」

「お月さま! すてきだね! ねえ、みうもいっしょに行っていい?」


 美海の発言に、少年は表情を歪める。

 しかし、彼が否定の言葉を紡ぐよりも先に琉生が返事をする。


「おぉ! それはよいな! いっしょに行こうぞ!」

「わーい! やったぁ! やまとくんはどうする?」

「………………………………♪」


 大和も、嬉しそうに頷く。

 一色隊は夏休みの間はずっと屋敷を空け、透花の別荘で過ごしていた。

 つまり、琉生とも久しぶりの再会なのだ。

 話したいことが色々あるのだろう。


「じゃあ、僕も……」


 ここで、四人に着いていこうとした心の足を止める出来事が起こる。

 目の前のテーブルに、新しい料理が提供されたのだ。

 心の視線は、料理に釘付けになった。


「ばるこにーって、ここから近いの?」

「あぁ! すぐじゃ! そこに見えておる!」

「ベランダのことかぁ! じゃあ、しんにいはここでごはんたべててだいじょうぶだよ!」

「え、でも……」

「子どもだけのひみつのお話とか、したいもんねー!」

「たしかにそうじゃな! 結城殿、ちと席を外してもらってもかまわぬか?」

「それはいい、けど……」

「しんぱいしなくても平気だよ! なにかあったらおっきな声出すから!」

「みうは本当に大きな声が出るからのう。しんぱいむようじゃ!」

「……わかった」


 こうして、心と子どもたち四人は別行動をとることになった。

 離れていく小さな背中を見ながら、心は料理を口に運んだ。

 謎の少年の表情が暗く淀んだものであったことには、気付かずに――――――――――。


「ただいま戻りました」

「……二人はどこに行ったの」


 十分ほどしたところで、晴久と理玖が戻ってきた。

 晴久は少し休憩するため会場の外へ、理玖はトイレに行っていたのだ。


「琉生くんと、あともう一人の男の子と、月を見にバルコニーに行ったよ……」

「新しいお友達ができたんですね。素敵です」

「……すぐに戻ってくるだろうし、ここから動かないようにしよう」


 琉生と一緒にいたのが子どもだったため、彼らは特に警戒心を抱かなかった。

 この十分後、琉生が行方不明になったという情報が彼らの耳にも届くことになる――――――――――。

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