月に導かれ消えた王子
それは、パーティーも中盤に差し掛かった頃のことだった。
ひっきりなしに続いていた琉生への招待客からの挨拶が、途切れた瞬間があったのだ。
その隙を突いて、一人の人間が琉生へと近付いていく。
それは、身なりをきちんと整えた、琉生と同じくらいの年齢の少年だった。
琉生護衛班の柊平、蒼一朗、颯は、その様子を静かに見ていた。
少年が何かを言うと、琉生は座っていた椅子から立ち上がった。
「父上! 母上! 月がきれいらしいので、余はこの者とバルコニーに出てくるぞ!」
「まあ、もうお友達になったの? 素敵ね。じゃあ、どなたかにお供を……」
「はっはっは! バルコニーに出るくらいなら供の者もいらんだろう!」
「父上の言うとおりじゃ! すぐにもどるからそのようなもの必要ない!」
「あら、そう?」
「気を付けて行ってくるんだぞ!」
「うむ! 行ってきます!」
琉生は、王と王妃に声をかけると少年と連れ立っていった。
三人は、その姿を目で追う。
「着いていかなくていいんすか?」
「相手は子どもだったし大丈夫だろ」
「……そうだな。王も護衛は必要ないと仰られていたので、私たちはここで待機だ」
琉生の護衛はこの三人だけではない。
他にも多くの軍人たちがこの任務に就いていた。
しかし、その誰もが王の言葉に従い動かずにいる。
だが、琉生は十分経っても、二十分経っても戻ってこなかった。
徐々に、王や王妃たちに困惑が広がっていく。
「どうかしたの? なんだか騒がしいみたいだけど」
有力者たちにあらかたの挨拶を終えた湊人が、このタイミングでやって来る。
「……琉生様が戻られないのだ。少しバルコニーで月を見るだけと言っていたのだが……」
「月? 久保寺さん、何言ってるのさ」
柊平の説明を聞くと、湊人は不思議そうに首を傾げた。
「今日は新月だよ。月なんて出てないじゃないか」
その声は三人だけではなく、近くにいた者たちの耳に届いた。
琉生の護衛の者たちは落ち着きがなくなり、王や王妃も不安そうな表情を浮かべている。
「王様……! 大変でございます……!」
そこに、一人の軍人が飛び込んできた。
少し前に、琉生の様子を見るためにバルコニーへと派遣された者である。
「王子も先程の少年も、バルコニーにはいらっしゃりませんでした……!」
その場は、あっという間に混乱に包まれたのだった――――――――――。