ただのゆるチャラ男ではありません
「それでは、明日の任務について説明します」
琉生の生誕パーティーの前日、隊員たちは再び透花によって執務室に集められていた。
透花は全員に資料を配ると、それを見ながら話を進める。
「まず、琉生様の席がここ。この付近に待機し、琉生様に近付く中に不審な人物がいないかどうかチェックしてもらう役目が三人。柊平さん、蒼一朗さん、颯くんにお願いします。三人を配置した理由としては、柊平さんと蒼一朗さんの戦闘能力の高さと、颯くんはあまり動き回らない場所がいいかなと思ったからです」
「……かしこまりました」
「おう、わかった」
「透花さん、あざまっす……!」
透花の心遣いに、颯は勢いよく頭を下げた。
それに彼女は、笑顔を返す。
「今回のパーティーには美海ちゃんと大和くんにも参加してもらいます。琉生様からの招待状に、全員で来て欲しいと書いてあったからね。その二人に付き添いつつ、会場を回ってもらう役目が三人。理玖、ハルくん、心くんにお願いします。ここのグループは比較的融通が利くので、適当に休んだりご飯を食べたりして大丈夫だよ」
「……わかった」
「はい、ありがとうございます」
「あの……」
「心くん、どうしたの?」
「さっき全員って言ってたけど、ぱかおは留守番……?」
「……そうだね。さすがにパーティーだと、犬や猫だと誤魔化しても動物は他人の目を集めてしまうから、今回は留守番してもらおう。琉生様が遊びに来てもぱかおは隠れているから、会ったこともないしね。心くん、話しておいてくれる?」
「わかった……」
ぱかおは、琉生が屋敷に来る時はいつも隠れていた。
琉生だけではなく、来客があると必ずそうなのだ。
庭師として働いている大吾の前にも、姿を見せたことはない。
彼が信頼し、深く関わろうとするのはあくまでも一色隊の面々だけである。
服を着ての外出は、大多数に紛れ自分に視線が集まらないので平気らしいのだが。
「次は、湊人くんだね。湊人くんは、自由に会場内を歩き回ってもらって大丈夫だよ。偉い人たちとのパイプ作りに、存分に励んでください」
「ありがたいけど、太っ腹だね。そんなに自由だと、さすがの僕でも気が引けちゃうなぁ」
「その代わり、絶対にタブレットやパソコンを持ち歩いてもらえるかな。何かあった時に頼ることになると思うので。まあ、何もないに越したことはないのだけれどね」
「わかった。会場内の人たちのデータも取れる絶好の機会だから、楽しませてもらうよ」
湊人の眼鏡が、キラリと光る。
彼のデータが充実するのは、隊にとっての利益にも繋がるだろう。
それをわかっているため、その怪しい笑顔を指摘する者は誰もいなかった。
「最後に、虹太くん。虹太くんには、各所に挨拶回りをする私のエスコートをお願いします」
「まっかせといて~☆」
「は!? こいつに!?」
「透花さん、ちょっと待ってほしいなぁ。そこはさすがに人選ミスじゃない?」
透花の言葉に、蒼一朗と湊人が即座に反応する。
声こそ発さなかったが、理玖もどこか不満げな表情をしていた。
晴久、心、颯の三人は特に異論はないようだ。
「こういう時は、こいつの出番じゃねーの?」
「僕も久保寺さんが適任だと思うよ。虹太くんじゃ、権力者たちの前で何を仕出かすか……」
「二人とも、ひっどーい!」
急に話を振られた柊平は、困惑の表情を浮かべている。
しかし、すぐにいつもの冷静な顔に戻ると口を開いた。
「……私は、隊長の意見に賛成だ。椎名は適任だと思う」
「いやいやいやいや! なんでだよ!?」
「うっかり転んで、偉い人にお酒とか引っ掛けそうだと思うんだけどなぁ……」
「あはは~。それはちょっとやりそうかも☆」
当事者の虹太は、朗らかに笑っているだけだ。
「……椎名は、所作が美しい。その、育ちの良さが見て取れるというか……。今回のようなパーティーへの参加も、慣れているのではないか?」
「そうだね~。昔の話だけど、みんなよりは慣れてるかな?」
「ならば、やはり適任だろう。私はそのような場とは無縁だったからな。隊長のエスコートという大役は、とてもじゃないが務められない」
「……というわけです。蒼一朗さんに湊人くん、あとは理玖も。納得してもらえた?」
三人とも、虹太の立ち居振る舞いに思い当たる節があったのだろう。
これ以上の反対意見はないようだ。
「じゃあみんな、よろしくお願いします。明日に備えて、各自早めに休むように」
こうして、隊員たちは解散したのだった。
翌日に大きな任務を控えているせいか、屋敷はどこか不思議な空気に包まれていたという――――――――――。