柔らかな女性
「はじめまして。一色透花といいます。これからよろしくね」
隊長と初めて会った時の衝撃を、私は今でも忘れない。
(この華奢で可憐な少女が、なぜ隊長のような役職に……?)
主から、若い女性であるということは聞いていた。
しかし、その姿は私の想像を遥かに越えて若く、そして美しかったのだ。
思わず言葉を失ってしまったが、彼女は特に気にした様子はなかった。
「柊平さんと呼ばせてもらうけれど、何か不都合があったら言ってね」
この言葉にも、私は驚かされる。
彼女は隊長で、私はその部下なのだ。
まさか、下の名前で呼ばれるとは思っていなかった。
……主からは、名前など呼ばれたこともないからな。
「不都合などありませんが……」
「うん。どうしたの?」
「……私は、あなたの部下です。敬称は省略していただいても構いません」
「私が親しみを込めてそう呼びたいのだけれど、ダメかな?」
「……いえ、隊長のお好きなようにお呼びください」
「それならよかった。あと、私はあなたを部下として扱う気はないよ」
「……それは、一体どういう意味でしょう?」
まさか、既に私がスパイということに感付いているのか……!?
そのような手練れには、とても見えないのだが……。
「私は隊長で、あなたはその補佐です。名目上はね。でも私にとって、柊平さんは仲間だよ。立場や役職を気にせずに、いい関係を築いていけたらなって思っています」
……隊長に会ってからこの短時間で、私は何回驚かされるのだろう。
人の上に立つ者で、このように柔らかな人物を私は見たことがなかった。
主の家の方々は、強いがどこか冷たい雰囲気を持つ人ばかりだった。
……それが当たり前のことだと思っていたのだが、違うのだろうか?
「だから、敬語を使わずに話してくれても大丈夫だよ。名前で呼んでくれてもいいし」
「……いえ、そこは私なりのけじめがありますので」
それを、曲げるわけにはいかない。
私は、隊長と仲良くなるためにここにいるのではない。
全ては、主の役に立つためなのだ。
……私が仕えるのは、この方ではないのだから。
「わかりました。自分の信念を貫くのも大切なことだものね」
「……ご理解いただき、ありがとうございます」
「いえいえ。それでは、改めてよろしくお願いいたします」
「……こちらこそ、よろしくお願いいたします」
こうして私の、一色隊の隊員としての生活が始まった――――――――――。