秘めやかなる立場
私の家は、代々続く軍人の家系だった。
そして、昔から大臣の家に仕える家でもあった。
長い歴史の中で繰り返されてきたことなので、父や私の代でそれが変わることもない。
私も、兄たちと一緒に大臣とその家族に仕えていた。
……私の本来の主は、この大臣だ。
そんな彼が、ある日私を呼び出して言ったのだ。
「お前に、特殊任務を頼もうと思っている」
「……見に余る光栄でございます。その任務というのは……」
「難しいことではない。とある女の監視を行ってほしい」
「……女、ですか?」
主は、詳しい話を私にしてくださった。
近々、一人の少女が王から隊長の地位を授かるらしい。
その少女は最近まで王都にはいなかったこと、隊長という地位を授かるには若過ぎることなど、いくつも不審な点があるらしい。
だが、王は少女を隊長にすると言って聞かないそうだ。
「だから、王に私から申し上げたのだ。私の優秀な部下を、ぜひその少女の補佐として働かせてほしいとな。そうすれば、何か起こってもすぐに対処ができる。王はこの件を快諾してくださったぞ。その女は、王都に戻ってきたばかりで知り合いなどもいないらしい。私が推薦する優秀な者ならば、必ず女の助けになってくれるだろうと仰っていた」
「……それで、私ですか」
「ああ。頼めるな」
「はい。もちろんでございます。……ですが、一つだけ宜しいでしょうか」
「なんだ。言ってみろ」
「……私には、優秀な兄が何人もおります。彼らを差し置いて、なぜ私が……」
「それは、私がお前を買っているからだよ」
「……私にはもったいないほどの、光栄な言葉でございます」
「本当のことだ。私は信じている。お前ならば、必ずこの任務をやり遂げてくれるとな」
「……久保寺柊平、その特殊任務を承りました。必ずや、成功させてみせます」
「頼んだぞ。月に一度、特に何もなくても私に連絡を入れろ。監視がばれるとまずいので、それ以上の接触はなしだ」
「かしこまりました」
こうして私は、隊長の下で働くことになったのだ。
……本来の主である、大臣のスパイとして。