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競走
とある日のこと、本日の任務を終えた蒼一朗は透花と一緒にランニングをしていた。
屋敷内にもトレーニングルームはあるのだが、彼らは時間を見つけては外に走りに行くようにしている。
十キロを走り終えたが、二人ともまだ余力があるようだ。
「どうする? もう帰る?」
「んー、なんか物足りない感じなんだよな……」
「じゃあ、近くの陸上トラックを走っていこうよ。今日は、千五百メートルで競走でもしようか」
「おっ、いいぜ。……今日こそは負けないぜ」
「私だって負けないよ!」
「今日もなんか賭けるか」
「賛成! 私が勝ったら、ボヌールのチョコね」
「げっ! あそこのチョコって、一粒がめちゃくちゃたけーんだよな……。俺が勝ったら、食べ放題じゃない焼肉な」
「それもいいね。私、冷麺食べたい!」
「それもう肉じゃねーし……。ほんと余裕だな……」
ランニングを終えた後にお互いの食べたい物を賭けてトラックで競走するというのが、二人のお決まりのパターンになろうとしていた。
四百メートル、八百メートル、千五百メートルと毎回違う距離で競うのだが、蒼一朗が勝ったことはまだ一度もない。