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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第二十八話 スカシユリの本音
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私が仕える人

『……どうだ。ターゲットの様子は』

「……特に変わりはありません」

『……そうか。だからといって、気を抜くなよ。何が起こるかわからんからな』

「……一つ、よろしいでしょうか」

『なんだ。言ってみろ』

「……対象の監視を始めてから一年以上が経ちますが、問題行動などは見られません。これ以上続けてもそれは変わらないと思います。……その、過度な心配ではないでしょうか」

『……お前、あの女にたらしこまれたのか』

「いえ、私はそのようなつもりは……」

『顔だけはいい女だからな。お前のような堅物を掌で転がすことなど簡単だろう』

「………………………………」

『過度な心配ではないかとお前は言ったが、それを決めるのはお前ではない』

「……行き過ぎた発言をしてしまい、大変申し訳ありません」

『お前の主は誰だ。あの女ではないな』

「……はい。私の主は、あなた様ただ一人でございます」

『わかっているならいい。何かあったらすぐに知らせろ』

「……かしこまりました」


 相手方の電話が切れたのを確認すると、私は大きなため息を一つ吐いた。

 月に一度の報告は、自分にとって一番緊張する時間なのだ。

 ふと視線を窓に向けると、庭で子どもたちと数人の隊員が遊んでいる姿が目に入る。

 そこには、笑顔を浮かべる隊長もいるわけで……。

 最近の私は、その笑顔を見るとひどく胸が痛むようになっていた。

 ……私は他の皆とは違い、自分の意志でここにいるのではない。

 本来の主に命令され、隊長を監視するという任務に就いているのだ。

 ……これを知る者は、もちろん自分以外にはいない。

 だからこそ、羨ましく思ってしまう。

 隊長の笑顔に、本物の笑顔で接することのできる他の隊員たちが。

 そして、辛いと感じる。

 ……隊長の笑顔に、偽物の表情と言葉でしか接することのできない自分が。

 入隊の経緯さえ違えば、私もあのような笑顔を浮かべられていたのか……?

 ……いや、主のお導きがなければ、隊長との巡り合いすらなかったのだろう。

 私はいつの間にか、隊長と出会った時のことを思い出していた――――――――――。

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