私が仕える人
『……どうだ。ターゲットの様子は』
「……特に変わりはありません」
『……そうか。だからといって、気を抜くなよ。何が起こるかわからんからな』
「……一つ、よろしいでしょうか」
『なんだ。言ってみろ』
「……対象の監視を始めてから一年以上が経ちますが、問題行動などは見られません。これ以上続けてもそれは変わらないと思います。……その、過度な心配ではないでしょうか」
『……お前、あの女にたらしこまれたのか』
「いえ、私はそのようなつもりは……」
『顔だけはいい女だからな。お前のような堅物を掌で転がすことなど簡単だろう』
「………………………………」
『過度な心配ではないかとお前は言ったが、それを決めるのはお前ではない』
「……行き過ぎた発言をしてしまい、大変申し訳ありません」
『お前の主は誰だ。あの女ではないな』
「……はい。私の主は、あなた様ただ一人でございます」
『わかっているならいい。何かあったらすぐに知らせろ』
「……かしこまりました」
相手方の電話が切れたのを確認すると、私は大きなため息を一つ吐いた。
月に一度の報告は、自分にとって一番緊張する時間なのだ。
ふと視線を窓に向けると、庭で子どもたちと数人の隊員が遊んでいる姿が目に入る。
そこには、笑顔を浮かべる隊長もいるわけで……。
最近の私は、その笑顔を見るとひどく胸が痛むようになっていた。
……私は他の皆とは違い、自分の意志でここにいるのではない。
本来の主に命令され、隊長を監視するという任務に就いているのだ。
……これを知る者は、もちろん自分以外にはいない。
だからこそ、羨ましく思ってしまう。
隊長の笑顔に、本物の笑顔で接することのできる他の隊員たちが。
そして、辛いと感じる。
……隊長の笑顔に、偽物の表情と言葉でしか接することのできない自分が。
入隊の経緯さえ違えば、私もあのような笑顔を浮かべられていたのか……?
……いや、主のお導きがなければ、隊長との巡り合いすらなかったのだろう。
私はいつの間にか、隊長と出会った時のことを思い出していた――――――――――。