世界の色は、あっという間に元に戻ってしまった。
「ん……」
「虹太…! 気が付いたのね!?」
「先生! 息子が、息子が目を覚ましました……!」
目を覚ました俺の視界に飛び込んできたのは、両親と白い天井だった。
二人に聞くと、係の人が倒れてる俺を見つけてくれて、そのまま病院に運ばれたらしい。
幸い、命に別状があるような大怪我はしなかったんだけど……。
「手が、痛いよ……」
「………………………………」
「………………………………」
二人とも、どうして俺の方を見ないの?
……どうして、そんなに悲しい顔で黙ってるの?
「……手の状態については、私から話しましょう。こんにちは、虹太くん」
「こんにちは……」
白衣を着て眼鏡をかけた人が、俺に話しかける。
俺を診てくれたお医者さん、だよね……。
「……君の手なんだけどね、残念ながら手首と指が折れてしまったんだ」
「え……?」
「……君は、ピアニストの卵だそうだね」
「……はい。先生、俺の手、ちゃんと治るよね?」
「………………………………」
「今までみたいに、ピアノを弾けるようになるよね……!?」
「……隠してもしょうがない。正直に言おう。その夢は、諦めた方がいい」
「………………………………!!」
「もちろん、日常生活には戻れるようになるよ。きちんとリハビリをすれば、ピアノを弾くことはできるようになるだろう。だけど、プロのピアニストになるには……」
先生は何か言ってたけど、もう俺の耳には入ってこなかった。
……ピアノは、俺の全てだったのに。
それがなくなったら、どうすればいいの……?
ピアノに出逢って、俺の世界はたくさんの音楽で彩られたんだ。
白黒の世界で生きる俺にとって、ピアノだけが唯一、世界を綺麗に見せてくれるもの……。
それをなくした瞬間、俺の世界は一気にセピア色に戻っていくのを感じた――――――――――。