俺のライバル
コンクール当日、俺は控室で自分の出番を待ってた。
(昨日のお姉さん、聴きにきてくれてるかな~? 優勝して、いいとこ見せなきゃね♪)
……こーんなのんきなことを考えながらね。
前日のミニライブのおかげで、全く緊張してなかったんだ。
「……椎名くん、少しいいかな?」
「あっ、志摩くん! どうしたのー?」
そんな俺に、声をかける人がいた。
彼の名前は、志摩千明くん。
コンクールで顔を合わせることの多い、俺のライバルだ。
……少なくとも、俺はそう思ってたよ。
俺は基本的に、コンクールに出れば負けなしだった。
その時の準優勝は、毎回志摩くんなんだよね~。
俺がいないコンクールではよく優勝する、本当にピアノがうまい人だ。
だから俺は彼のこと、いつも優勝を争うライバルだって思ってたんだけど……。
……彼は、違ったみたい。
「……君に相談したいことがあるんだ。できれば人のいない所で話したいんだけど……」
「いいよ~☆ じゃあ、ちょっと出ようか」
いつもよりもふわふわとしてた俺は、彼を疑うことなく着いていく。
……人の顔色を窺うことは、得意だったはずなのになぁ。
なんでこの時は、志摩くんがいつもと違う表情だってことに気付けなかったんだろ……。