優艶なお客さん
……まあ、嫌な思い出の前に透花さんと出逢った時の話でも聞いてよ~。
俺は、コンクールの前日にはとあることを日課にしてたんだよね。
それは……。
「お兄ちゃん、次はこれひいてー!」
「虹太ちゃん、その次はこっちも頼むぞい!」
「みんな、まっかせて~☆ でも、順番ね♪」
うちの近くの公園にエレピを持ち込んで、ミニライブを開くこと!
その場にいた人からリクエストを募って、どんどん弾いていくんだよ~☆
老若男女問わず色々な人が聴いてくれるから、すっごく楽しいんだよね!
俺も、まあコンクール前は緊張してちょっぴりピリピリしててさ。
それを和らげるのに、ちょうどよかったんだ。
俺の音楽を聴いて、みんなが楽しんでくれる。
そしたら、もれなく俺もハッピー!!
音を楽しむ、それが音楽の本質だと思ってるからさ♪
俺の運命が変わっちゃったコンクール前日にも、もちろんライブをやったよ。
習慣になってたからお客さんには見知った顔が多いんだけど、その日は違ったんだ。
(綺麗な人がいるなぁ~)
一曲目を弾く前から、ギャラリーの中に見知らぬ女の人がいてね。
この辺では見かけない上にすっごく美人だったから、目をひいたんだよね~。
それが、透花さんだよ。
透花さんは、ライブが終わるまでそこにいた。
でも、曲のリクエストはしなかったんだよね~。
だから俺は、気になっちゃったんだ。
この人は、どういう音楽が好きなんだろうって。