みんなの自慢の愛され美人隊長、一色透花
暫くすると、話を終えた透花がやって来た。
「待たせちゃってごめんね。みんなが想像以上に優秀だったから、スカウトの嵐だったよ。でも、全てお断りしてきたのでご心配なく! あ、もしかして異隊したい人とかいた?」
彼女の言葉を聞き本格的に安心した隊員たちに比べ、透花には軽口を叩く余裕すらある。
自分の大切な仲間の力が多くの人間に認められたことで、鼻高々なのだろう。
「おりません。先程まで、逆に異隊は嫌だという話で持ち切りでした」
「そう? それならよかった」
柊平が、皆の意見をまとめ透花に伝える。
それを聞くと、透花は優しく微笑んだ。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか。今日の夕飯なんだけど、試験も終わったしパーッと手巻き寿司パーティーでもやらない?」
「素敵ですね。僕、エコバッグ持ってます」
「ハルくん、さすが~☆」
「まぐろ、ホタテ、海老、イカ、たこ……」
「……結城、涎を拭け」
「心、サーモンも忘れんなよな!」
「……アボカド」
「……お前、本当に魚食わねえよな」
「春原さんは魚だけじゃなくて、肉も食べないよね」
楽しそうに夕飯の話をしながら、彼らは会場を出ていく。
その姿を羨ましそうに見つめる視線は多かった。
「なんか、一色隊楽しそうだよな」
「ああ。隊員がみんな優秀だと、隊長が若い女でもなんとかなるんだな」
「要するに、隊長はお飾りってわけか」
「それなら、あんな若い女が隊長なのも納得いくぜ。美人だもんな」
その言葉に、最後尾を歩いていた湊人が歩みを止めて振り返った。
「今のは聞き捨てならないなぁ。あなたたち、僕らの隊長のことを馬鹿にしないでくれる?」
湊人にそう言われ、声をかけられた輩は気まずそうに目線を泳がせることしかできない。
「彼女が隊長としても人間としても尊敬に値するから、僕らは従ってるんだよ。本当に無能なお飾りだったら、あんな風に慕われるはずがないでしょ?」
「湊人くん、どうかしたー?」
「ううん、なんでもない。すぐに行くよ」
湊人がなかなかやって来ないことに気付いた透花が、前の方から声をかける。
「一色隊のみんなが一番嫌いなことを教えてあげよう。それは、隊長を馬鹿にされることだよ。そのスカスカの脳味噌に叩き込んで、今後僕らの前で彼女の悪口を二度と言わないでね。じゃあ」
湊人は過激な言葉とは裏腹に笑みを浮かべると、その場を去っていった。
透花を馬鹿にしていた輩は、声を発することすらできなかったという。
翌日から、試験の結果を受けて一色隊には多くの依頼が舞い込んでくることになる。
彼らの忙しい日々は、まだ始まったばかりだ――――――――――。