まさかこの輝きが、僕を導くことになるなんて
「……一色隊長、申し訳ないのですが、私はこちらに残って働くつもりはありません」
「はい。先程手を上げてらっしゃらなかったので、それは承知していますよ」
「では、なぜ……?」
「引き継ぎを円滑に進めたいので、こちらを案内していただけませんか?」
「……かしこまりました」
「心配なさらないでください。引き継ぎの者が来れば私もここを離れます。その時に、近くの町までお送りしますよ」
「……お気遣い、感謝いたします。では、まずはこちらからどうぞ」
こうして僕は、透花さんの案内を始めた。
さっきまでと同じように、彼女はすごく真剣に話を聞いてくれたよ。
歩きながら、普通に話しかけてくる。
……僕がイメージする隊長とは違って、全然偉ぶらないから不思議だよね。
「二階堂さんは、どうしてこちらに?」
「え……?」
「ああ、急にデリケートな話をしてしまい申し訳ありません。ですが、私の目にはあなたが借金をするようにも、一攫千金を求めるようにも見えなかったので」
「……親が、借金を残して死んだんです。その返済のためですよ」
……本当は嫌だったけど、僕は手短に答えた。
基本的に、目上や社会的地位のある人間には逆らわないようにしてるからね。
「なるほど……。その借金、私に肩代わりさせてもらえませんか?」
「は……?」
この人は、何を言ってるんだ……?
どうして、出会ったばかりの僕にそんなことを言うのさ……?
「一色隊長、申し訳ありません。仰られている意味が、自分には理解できないのですが……」
「わかりづらかったですよね。ごめんなさい。実は……」
透花さんは、順を追って丁寧に説明してくれた。
隊長という立場にいるが、まだ隊員の数が揃っていないそうだ。
自分の好きに選んでいいと王から言われているため、僕をスカウトしたいらしい。
「つまり、今あなたが背負っている借金を私が代わりに返済します。あなたは私の下で働きながら、それを返してくれればいいんです。もちろん、利子などはいりませんよ」
こんなに上手い話が、あっていいのかな……?
いや、でも僕は一度騙されてるわけだし、ここは慎重にいかないと……。
「……どうして、私に声をかけてくださったのか聞いてもよろしいですか?」
「……目が、死んでいなかったんです」
「目、ですか……?」
「はい。ここの労働者たちは、みんな目が死んでいました。その中で、あなただけは違った。現状をどうにか変えたいと思い、辛い現実と必死に戦っているように見えました。それに実際、あなたの発案はとても有意義なものでしたし。これでは理由になりませんか?」
「いえ……」
はあ、困ったな……。
普段は、絶対に第六感とかは信じないタイプなんだけど……。
……透花さんを見た時にこの人しかいないって思った気持ち、間違ってないよね。
「……一色隊長、本当にそこまで甘えてしまっていいのでしょうか?」
「はい。こう見えても隊長ですから。お金はたくさん持っています」
……僕の態度が変わったことに気付いたんだろう。
透花さんは、いたずらな笑みを浮かべながら言う。
「……では、私をあなたの下で働かせてください。今日から、よろしくお願いいたします」
僕が頭を下げると、透花さんは自然な動作でそれを止めさせた。
そして、砕けた口調で話し出す。
「こちらこそよろしくね。さっきは私の下で、と言ったけれどこれは立場上の問題というだけなの。私はあなたを部下としてではなく仲間として扱うから、あなたにもそうしてもらえると助かるな。まずは、敬語を止めない? 私も普段は、みんなに敬語なんて使わないんだ」
確かに、一緒にいた二人は敬語を使ってなかったけど……。
とてもそうは見えないけど、隊長なんでしょ?
本当にそれでいいわけ……?
「あ、もちろん無理にとは言わないよ。私がそう思っているだけで、どうするか決めるのはあなただし。うちの隊には、敬語がデフォルトの人もいるしね」
「……いや、それなら普通に話させてもらうよ。こっちの方が楽だからね」
……まあ、いいか。
彼女がいいって言ってるんだから、いいんだろう。
僕が敬語を止めると、透花さんは花が咲いたみたいに笑う。
敬語を止めただけでこんな顔をするなんて、ほんと変な人だな……。
「じゃあ、改めてよろしくね。湊人くん」
「うん。こちらこそよろしく頼むよ。透花さん」
こうして僕の、一色隊での生活が始まったんだ。
僕が通っていた大学よりもレベルの高い王都の学校に編入できたし、学業の合間にこなす任務でお給料は貰えるし、一昔前の僕が見たら信じられないくらい素晴らしい日々を過ごさせてもらってるよ。