甘い言葉に乗せられて
両親が僕に残した借金の額は、とてつもないものだった。
……それこそ、一生働いても返せないくらいにね。
金貸しは、すぐに大学を辞めて働くように僕に迫った。
返すのが遅れるほど利子が増えていくから、それは当たり前のことなんだけど……。
……僕は、どうしても大学を辞めたくなかった。
あれだけ必死に勉強して、明るい未来が徐々に見えてきたと思ってたのに……。
……仕方なく休学届けを出し、僕は期限付きで大学を休んで働くことにしたよ。
だけど、普通に働いても返せるような額じゃない。
そんな僕に、金貸しは甘い言葉を囁く。
「一攫千金を狙える場所を知ってるぜ」
「……言っておくけど、ギャンブルはやりませんよ」
「そんなんじゃねぇよ! 少し離れた場所にある、鉱山を知ってるか?」
「はい。確か、砂金やら宝石が埋まってるっていう……!」
「それだよ。高価な値で取引されるような物も採掘できるって話だぜ。あんたも、いい宝石をいくつか見つければ、晴れて借金とはオサラバできると思うんだがなぁ」
……この時の僕は、冷静な判断ができるような状況じゃなかったんだよね。
今までの日常が、全部非日常に変わっていくんだもの。
両親は借金を残して死ぬし、学びの場は奪われるしさ……。
……だから、気付かなかったんだよ。
金貸しが、下卑た笑みを浮かべていたことにね。
それに、僕の中にずるい気持ちもあったんだと思う。
働いても返せない額なら、一攫千金に縋るしかない。
宝石を見つけるだけでいいんだから、働くより簡単じゃないかって……。
「……その話、詳しく聞かせてもらえますか?」
「勿論だ! 俺は、鉱山と労働者の仲介役もやってるからな! ちょちょいっと口を効けば、すぐにでも働き始められるぜ!」
……こうして僕は、まんまと口車に乗ってしまった。
それが、地獄の日々の始まりだとも知らずにね――――――――――。