いつか大人に
「あ、心くん」
「透花さん……」
リビングに行くと、そこには透花さんがいた。
僕の姿を見ると、ゆっくりと立ち上がって近付いてくる。
そして、優しく笑いながらこう言ってくれたんだ。
「少し前から思っていたのだけれど、心くん、背が伸びたよね」
「そう……?」
「うん。目線が少し近くなったような気がする」
言われてみれば、そんな気も……?
前はもっと、見上げて話してたかも……。
「すぐに抜かれちゃうんだろうなぁ。私はこれ以上大きくならないだろうし」
「あんまり、大きくならなくていい……」
「どうして?」
「僕の方が大きくなったら、颯くんが大変だよ……」
「ふふっ。確かにそうかもね」
颯くんはあんまり身長が大きくないのを気にしてるみたいで、牛乳をたくさん飲んでる。
僕たちは成長期だから、そんなことしなくても自然に伸びると思うんだけど……。
身長がコンプレックスみたいだから、僕の方が大きくなったらうるさいだろうなぁ……。
僕は別に、小さくてもいいんだ。
だって……。
「……透花さん、昼寝したいから膝枕して?」
その方が、こうやって堂々と甘えられるでしょ……?
「いいよ。おいで」
透花さんはふわりと笑うと、さっきまで座っていたソファに腰かけた。
僕も隣に座ると、彼女の膝に頭を預ける。
「眠れそう?」
「……うん」
「それならよかった」
僕はみんなの目を盗んで、こっそり膝枕をしてもらうのを日課にしてるんだ。
みんなに見られたら、絶対に何か言われるから……。
この誰にも邪魔されない時間が、大好きなんだよ。
「こう暑いと、昼寝も捗らないよね。今日は特に予定もないから、ゆっくり寝ていいよ」
「ありがとう……」
透花さんは、僕の髪を撫でながらそう言ってくれる。
ぱかおのせいで覚めていた睡魔が、一気に僕を襲ってきた。
……お母さん、僕はまだ、お母さんが言ってたことはわからないよ。
でも、僕も誰かのことを好きになったらわかるのかな……?
お父さんがお母さんを、お母さんがお父さんを大好きだったみたいに……。
……もしそうなら、僕にもいつかわかるかもしれない。
その人はきっと、すごく優しくて、僕のことを助けてくれた人だ。
……僕も助けてもらうだけじゃなくて、その人を守れるようになりたいな。
甘えるだけじゃなくて、甘えさせてあげられるような大人になりたい……。
(やっぱり、背が伸びてもいいかも……)
そんなことを考えながら、僕は意識を手放した。
夢の中の僕は身長が伸びていて、大切な人と手を繋いで歩いていたよ。
……いつか、現実になるといいな。