僕はまだ、そんなに大人じゃない。
「……だから僕は、軍人になったんだよ。お母さんには、理玖さんが作ってくれた薬と一緒に手紙を送ってる。あとは、お金も……」
(……くー。すぴー……)
……妙にぱかおが静かだなと思ったら、僕のお腹の上で気持ちよさそうに寝てた。
どこまで聞いてたんだろ……?
……まあ、いいか。
僕は、ぱかおを静かにベッドに下ろすと毛布をかける。
そして、自分はベッドから下りた。
(お母さん、体調が大分よくなったってこの間の手紙に書いてあったな……。もうすぐ、働き始めるとも……。僕はいつまで、美海にこの嘘を隠し通せるんだろう……)
お母さんとの手紙のやり取りは、美海と僕で別々にやってる。
……そうすれば、美海には見られずに色々なことを書けるから。
(……僕だって、お母さんと一緒に暮らしたいよ。でも、お母さんがあの村を離れることはないんだ。お父さんが、帰ってこない限り……)
僕は、お父さんが戻ってきて四人で王都に住んでいる姿を想像してみた。
……なんとなく、モヤモヤする。
その光景を、うまく思い描けない。
お母さんは、いつか僕にもお父さんが僕たちを愛してるのがわかるって言ったけど……。
……まだ、わからないよ。
あの頃の生活を抜け出せて、昔みたいにお父さんを心の中で責めることはなくなった。
……でもやっぱり、許せてないんだと思う。
僕たち家族が辛い時に、一緒にいてくれなかったことを。
……僕がいまだに前髪を伸ばして片目だけ隠しているのが、その証拠だ。
僕はモヤモヤを抱えながら部屋を出ると、階段を下りてリビングに向かった――――――――――。