母親にはなれないけれど、あなたを愛し守ることはできるよ。
目を覚ました美海は、想像以上にごねた……。
起きたらお母さんと離されて知らない場所にいるんだから、仕方のないことだけど……。
広い屋敷いっぱいに鳴り響くくらいに泣くから、ちょっと僕もびっくりしたよ……。
「おかあさあああああん! みう、おうちにかえりたいっ……!!!」
「……今日からは、ここが僕たちの家だよ」
「ちがうもん! みうのおうちは、おかあさんがいるあのいえだもん!」
……美海には、お母さんの病気を治すために離れて暮らすことになったって伝えた。
これが、一番自然でわかりやすい理由だと思ったから……。
でも、美海にとってはそんなのどうでもいいみたいだ。
……お母さんが自分と一緒にいてくれないから、捨てられたと思ってる。
それは違うよって言っても、全然聞いてもらえない……。
こんな感じで、美海は王都での暮らしに全然慣れなかった。
毎日泣いては宥めるの繰り返しが、僕は段々辛くなってきたんだけど……。
「……美海ちゃん、ごめんね。お母さんと一緒に暮らせなくて、悲しいよね」
「かなしいよ……! おうちにかえりたい……!」
「……お母さんもね、本当は美海ちゃんと離れたくなかったと思うよ。でも、病気を治すために仕方なく別々に暮らすことにしたんだよ。美海ちゃんは、病気が治ってほしくない?」
「おかあさん、げんきになってほしい……!」
「そうだよね。じゃあ、お母さんが元気になるまではお兄ちゃんと一緒にここで頑張ろう」
「おかあさんのびょうきがなおったら、またいっしょにくらせるようになる……?」
「……うん。任せて! 絶対にまた、家族で暮らせる日がくるからね」
透花さんは、美海のことを抱き上げて毎回優しく言うんだ。
これを数週間、毎日繰り返せば美海も落ち着いてきて……。
「美海ちゃん、明日から幼稚園に行ってみようか」
「ようちえん……?」
「うん。お友達がたくさんいる場所だよ」
「おともだち……!」
美海は、少しずつ昔みたいな笑顔を見せてくれるようになった。
今までいなかった友達がたくさんできたというのが、楽しくてしょうがなかったみたい。
僕も、特に問題なく暮らしてる。
……今までは学校にも行けなかったから、勉強はすごく大変だったけど。
こうして美海は小学生に、僕は高校生になることができたんだよ。