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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第二十五話 チューリップを隠さないで
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旅立ちには寂しさがつきものだ。

「……治療は終わったよ。薬を飲んだから、少しずつだけど体調はよくなると思う」


 僕が透花さんと話していると、理玖さんが寝室から出てきた。


「あの、ありがとう……」

「……お礼なんていいから、早く行ってあげて。君のこと、呼んでる」


 僕は、寝室に入る。

 早く、さっきまでのことをお母さんに伝えなきゃ……!


「お母さん……」

「心、心配かけてごめんね。もう大丈夫よ」


 そう言ったお母さんは、目元が赤い。

 でも、さっきまでとは違って顔色がよくなってる。

 僕はほっとしながら、ベッドの枕元にある椅子に座った。

 ……お母さんの膝にもたれかかるみたいに、美海が突っ伏して寝てる。


「美海、寝ちゃったの……?」

「ええ。頑張ってお手伝いしてくれたから、疲れちゃったみたい」

「……そっか。あのね、お母さん……」


 僕は、透花さんと話していたことをお母さんに伝えた。

 王都で暮らせばこんなひどい目に遭わなくて済むんだよ、だから引っ越そうって。

 お母さんも、絶対に喜んでくれると思ったのに……。


「……心、残念だけどお母さんは一緒に行けないわ。美海と二人でお世話になりなさい」


 お母さんは、寂しそうな笑顔でそう言ったんだ。


「なんで……? 僕は、みんな一緒に王都で暮らしたいよ……」

「……お母さんは、この村を離れたくないのよ」

「どうして……?」

「……お父さんが戻ってきた時に、家に誰もいなかったら困るでしょう?」


 どうしてお母さんは、そんなことを言うの……?

 お父さんは、僕たちを捨ててこの村を出て行ったのに……。


「お父さんと結婚しなかったら、お母さんは病気にならなかったんだよ……?」

「……そうね」

「それなのに、なんで……!? 僕たちが村の人たちにひどいことをされたのも、全部お父さんのせいじゃないか……!」


 ……生まれて初めて出した大きな声に、お母さんは驚いてたと思う。

 それは、叫びに近かった。


「ご、ごめんなさい……」

「いいのよ。あなたがそう思うのも仕方のないことだとわかるから。でもね、お母さんはなんとなくわかるの。今は離れて暮らしているけれど、気持ちは繋がってるって」

「そんなの、僕にはわからないよ……」

「……心には、特に辛い思いをさせたものね。今は、わからなくて当然だと思う。だけど、いつかきっとわかるわ。お父さんは、今でも家族を愛してくれていることが」


 ……そう言って優しく笑うお母さんの顔を見たくなくて、僕は顔を背けた。


「……でも、僕は王都に行きたい。この村以外の世界を、見てみたいよ……」

「お母さんもそうした方がいいと思う。美海と二人で、外の世界を見てらっしゃいな」

「……美海はまだ小さいんだから、お母さんと離れて暮らすなんてできないよ……。絶対にこの村に残るって言うと思う……」

「……そうね。でもそれは、きっと美海のためにならないわ。王都で暮らした方が、この子は幸せになれる。……あなたたちが出かけてる間にね、一色さんと話をしたの」

「透花さんと……?」

「ええ。彼女になら、あなたたちを任せてもいいと思えたわ。美海も、最初はお母さんと離れることを嫌がるかもしれない。でももう少し大人になれば、ちゃんとわかるはずよ。自分にとってどこで暮らすのが一番いいか。だからそれまで、あの子のこと守ってくれる?」

「……わかった。手紙、書くね」

「楽しみにしているわ。お母さんも、返事を出すわね」


 僕は自分と美海の荷物を纏めると、この日のうちに村を出た。

 美海のことは起こさずに、柊平さんに抱いて移動してもらう。

 起きたら、絶対にごねるってわかってるから……。

 こうして、王都での暮らしが始まったんだ――――――――――。

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