優しい世界へ行こう
「……目を、見てもいいかな?」
これが、僕が話し終わってから透花さんが最初に言った言葉だった。
「……いいよ」
そう言うと、透花さんの右手が僕の顔に近付いてくる。
僕は反射的に、体を硬くしてしまった。
今まで、他人に触られるのなんて殴られる時くらいだったから……。
「あ、ごめんなさい……」
「……謝ることじゃないよ。私も無遠慮にごめんね。触っても、平気?」
「……うん」
透花さんの手が僕の頬に触れ、前髪をかきあげる。
僕に触れた手は、優しくて温かかった。
「……とても綺麗な色だね」
「………………………………」
笑顔で褒めてくれたけど、やっぱり僕はなんて言ったらいいのかわからない。
透花さんは、言葉を続けた。
「ねぇ、心くん。別の場所で暮らしたいと思ったことはない?」
「別の場所……?」
「うん。見た目で人が判断されることのない場所だよ」
「そんな所、あるの……?」
「え……?」
「どこに行っても、僕みたいな見た目の人間は気持ち悪がられるんじゃないの……?」
「……そんなことないよ。私が住んでいる王都にはね、たくさんの人がいるの。その中には、肌の色がみんなとは違う人もいるよ。でも、元気に暮らしている。確かにその瞳は珍しいと思うけれど、それだけで迫害に繋がらない場所はこの世界にたくさんあるんだよ」
僕は、透花さんの言っていることが信じられなかった。
どこに行っても酷いことをされるんだから、この村で我慢しようって思ってた……。
でも、それは違うの……?
「そこに行けば、僕はもう殴られない……?」
「うん。あなたを殴る人なんていないよ」
「……そんな場所があるなら、行ってみたいな」
透花さんは優しく微笑むと、自分のことについて色々話してくれた。
隊長という偉い立場の軍人であること、隊員の選定については一任されているから色々な場所に行ってスカウトしていること、隊員の中には全く戦闘ができない人たちもいること、そして……。
「心くんさえよければ、私の隊の一員になって王都で暮らさない?」
僕に、隊員になってほしいこと……。
どうして僕なんだろうとか、聞きたいことはたくさんあった。
でも……。
「そうしたら、美海とお母さんも幸せに暮らせる……?」
「……うん。心配しないで。もちろんだよ」
「……お願い、します。僕たちを、この村から連れ出してください……!」
そんなこと、どうでもよかった。
家族で幸せに暮らせるなら、それだけで……。
初めて会った人をこんなに信用するなんて、この時の僕はどうかしてたのかもしれない。
でも、それくらい限界だったんだ……。
「任せて。あなたたち家族は、私が責任を持って守ります」
そう言うと透花さんは、凛々しい笑顔を僕に向けたんだ――――――――――。