自然と人間
その人は、僕と火を点けようとした人の間に立っていた。
だから、僕からは背中しか見えない。
「な、なんだお前は!?」
「見たことない顔ということは、余所者だな!?」
「邪魔をするな! これは、村を守るための生贄なんだ!」
村の人たちが、一斉に彼女を責め立てる。
だけど、彼女がそれを気にする様子はなかった。
「……柊平さん、この子のこと、下ろしてあげて」
「……かしこまりました」
彼女が指示すると、一人の男の人が僕に近付いてくる。
そして、縄を解くと地面に下ろしてくれた。
「勝手なことをするな!」
「儀式を邪魔されたから、神がお怒りだぞ!」
「今すぐ、その子どもを元に戻せ!」
「山を見てみろ! 今にも噴火しそうじゃないか!」
みんなの怒りの矛先が、彼女に向く。
彼女の背中は、静かに怒っているように見えた。
「……なんとなく、事情はわかりました。でも私には、彼への酷い扱いに対して山が怒っているように感じます」
「何を言ってるんだ!?」
「いいから早く、そいつを木に括り付けろ……!」
「山よ! 私は、この子に危害を加えないと誓います。ですからひとまず、その怒りを鎮めていただけませんか? 約束を破れば、どのような罰でも受けましょう」
女の人は、村の人たちの声なんか聞こえないみたいに、大声でそう言った。
そしたら……。
「お、おい! 急に山が静かになったぞ!?」
「どういうことだ!? 生贄を捧げてないのに……!」
……今にも噴火しそうだった山から、急に熱が引いていくのがわかったんだ。
村の人たちは、呆然としてる。
僕も、その光景をぼーっと見てるしかできなかった。
ここで、初めて彼女が僕の方を見た。
その人は、僕の想像よりもとても若くて……。
(綺麗な、人……)
これが、僕と透花さんの出逢いだった――――――――――。