満月の夜に舞い降りた奇跡
満月の夜は、あっという間にやってきた。
火山、つまりは火の神への生贄なので、僕は火あぶりにされることになった。
(死ぬなら痛くない方がよかったけど、仕方ないよね……)
そんなことを考えてる間にも、僕の体は木に縄で縛られていく。
完全に動けない状態になったところで、村の人たちが笑いながらこう言ったんだ。
「すぐに、母親と妹にも後を追わせるからな。安心して死ね」
「そんな……! 話が違う……! 僕が死ぬ代わりに二人には危害を加えないって……!」
「お前みたいな異端児との約束を、守るはずがないだろう」
「今なら、追加の生贄という名目で簡単に処分できるからな」
「騙されてくれてありがとよ」
……目の前が真っ暗になった。
それなら、僕はなんのために自分の命を……?
途中で邪魔されたら困るから、二人は村の人が監視してるってさっき誰かが言ってた。
もしかして、今頃捕まってるの……?
お母さんも美海も、怖くて泣いてる……?
家族を守りたかったのに、僕は何一つ守れないの……?
「そろそろ時間だ。火を点けろ」
……後悔しても、もう遅かった。
縄でしっかりと木に括りつけられてしまった僕は、その場から動くことができない。
(助けて……! お父さん、助けて……!)
僕がそう思った、瞬間だった。
「……やめなさい」
黒髪の女の人が、僕の前に立ったのは――――――――――。