誰のせいでもないはずなのに
……お父さんがいなくなってからの生活は、散々なものだった。
お母さんは、お父さんがいなくなったショックで体調を崩した。
それでも、僕と美海のために頑張って働いてくれたけど……。
それも長くは続かなくて、家からほとんど出られなくなってしまったんだ。
「あの男がいなくなって清々したよ! 次は息子の番だね!」
「いなくなるなら、子どもも連れて行ってくれればよかったのに……!」
……村の人からの敵意は、一気に僕に集まるようになった。
お父さんに似てるのが僕だけだから、仕方ないよね……。
美海は、お父さんに全く似てなかった。
肌も黒くないし、目の色も黒だ。
そのおかげで、あんまり酷いことを言われなくてよかったと思う。
「お前、ほーんと気持ち悪い見た目してるよな!」
「はやくこの村から出て行けよ! 疫病神が!」
……僕は、村の子ども達に呼び出されては暴力を振るわれるようになった。
……別に、平気だよ。
怪我をしても、すぐに治るし……。
僕が呼び出しに応じなければ、美海に危害が加えられるかもしれない。
それだけは嫌だったから、僕は必死に耐えてたんだ。
でも、でもね……。
(痛い、なぁ……)
体の傷はすぐに治るけど、心が痛くて仕方ないんだ。
お母さんは、そんな呼び出しなんかに応じなくていいって言ってくれた。
……でもこれは、僕なりの家族を守る方法だったんだ。
子どもで、何も知らない僕はこんなことしかできなくて……。
だけど、傷付けられる度に僕の考えは少しずつ変わっていった。
(お父さんが普通の見た目だったら、こんなことにはならなかったのかな……?)
……僕は、自分の赤い目を隠すように前髪を伸ばし始めた。
あんなに、自慢の目だったのに……。
でも僕はもう、わからなくなっちゃってたんだ。
全部をお父さんのせいにすれば、なんとなく心が楽になる気がしたから……。
お父さんがいなくなってから、あっという間に数年が経っていた。
この年、村の存続を揺るがすような出来事が起こったんだ――――――――――。