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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第二十五話 チューリップを隠さないで
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その幸せは、あっという間に過去になる。

 その日は、突然やってきた。

 美海が生まれて、すぐだったと思う。

 お父さんと同じように浅黒い肌に赤い瞳の男の人が、うちを訪ねてきたんだ。


「……探しましたよ」

「……見つかってしまったか」

「……すぐにでも戻っていただかないと困ります。国が……」

「……だけど、今の俺には家族がいるんだ」

「……後ろにいるのは、あなたの子ですね」


 男の人は、視線を下げて僕を見る。

 僕は、お父さんの腰にギュっと抱き付いた。


「……あなたの血を継いでいるのが、一目でわかります。子どもは、彼だけですか?」

「……いや、生まれたばかりの娘がいる。だが、肌も黒くなければ瞳も赤くはない」

「……そうですか。では、娘さんは諦めてください。彼だけなら連れて行けますよ」

「だが俺たちは四人家族だ……! 妻と娘だけを置いていくことは……!」

「……別に、連れて行っても構いません。ですが、彼女たちがどういう目に遭うかあなたならわかるでしょう。ここに残していく方が、賢明なのではありませんか?」


 男の人の言葉を聞いて、お父さんは何かを諦めたような顔になった。

 ……強いお父さんのあんな表情を見たのは、初めてだったと思う。

 お父さんは、両手で僕の肩を掴むと話し始めた。


「……心。よく聞きなさい」

「……なに?」

「……お父さんは、この家を出て行かなければならない」

「……なんで?」

「……ごめんな。それは言えないんだ。心だけなら連れて行けるんだが、お前はここに残ってお母さんと美海を守ってくれないか?」

「……お父さんは、いつ帰ってくるの?」

「……心、ごめん。離れていても、俺はお前たちのことをずっと愛しているよ」


 お父さんは僕から視線を外すと、男の人と向き合う。


「……行こう」

「いいのですか? 奥方様に挨拶をする時間くらいなら、待ちますが」

「……いいんだ。顔を合わせると、別れがたくなるとわかっているからな」

「……わかりました。息子さんも、連れて行かなくて本当にいいんですね?」

「……ああ」

「……では、参りましょう」


 お父さんと男の人は、そのままうちを出て行く。


「お父さん……! どこに行くの……!? なんで行っちゃうの……!?」

「………………………………」

「待って……! 行かないで……!」


 僕の叫びもむなしく、お父さんは家を出て行ってしまった。

 僕も急いで外へ出て探したけど、もうお父さんの姿はどこにもなかったんだ――――――――――。

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