儚いモノは美しい
花火が始まる時刻には、全員が理玖と颯が守っていた場所へと集っていた。
「はい、ご希望の焼きそばだよ。足りないと困るから、一応お好み焼きも買ってきたけど」
「あざまっす! ボリュームたっぷりっすね!」
「りっくんにはこれ~! いちごあめと、きゅうりの一本漬けだよん☆」
「……どうも」
「ハル、結局食い切れなかったな」
「ふがいないです……」
「……ちょうだい。溶けてるのも甘くて好き……」
(シュウヘイ! はやくわたあめくれよ! オレ、もう我慢できないぞ!)
「……今開けてやる。だから、暴れずに待て」
「大和くんと美海ちゃんにお土産だよ」
「わぁ! ぬいぐるみだ! とうかねえ、ありがとう!」
「………………………………♪」
このような会話を交わしている内に、あっという間に開始時刻になった。
夜空に、色とりどりの華が咲き始める。
「う~ん、この音を聞くと、花火って感じがするよね~」
(な、なんだこの音! この間のはなびと全然違うぞ! おっきい!)
「この間のは手持ち花火だったけど、今日のは打ち上げ花火だから……」
「わっ! すごい! ハートだ! あっ、次はにこちゃんマーク!」
「こんなにたくさん種類があるんだな! おっ! 次は雪だるまだぜ! 夏なのに!」
「………………………………!!」
「大和、あれが気に入ったのか? 二階堂、あれはなんて花火だ?」
「土星ですよ。確かに、少年は心惹かれるデザインかもしれませんね」
「とても綺麗ですね。僕、ちゃんと打ち上げ花火を見たのは始めてかもしれません」
「……私もそうだ。美しいな」
皆が盛り上がっている中、愁いを帯びた表情で静かに夜空を見上げる者がいた。
透花である。
そんな彼女に気付いた理玖が、声をかける。
「……なんて顔してるの」
「……私、そんなに変な表情をしていた?」
「……自覚がないなら、気を付けた方がいいよ。君の笑顔が好きな子どもたちなんかは特に、今みたいな顔を見たら驚くと思うから」
「……はーい、わかりました」
「……それで、何を考えてたの」
「え……?」
「……どうせ、くだらないことでも考えてたんだろう」
「……花火って、すぐに消えてしまうでしょう? 美しいけれど、儚いなぁって……」
「……僕は、逆だと思うけど」
「どういうこと?」
「……儚いから、美しいんだよ。あれが常に夜空に浮いてたら、ちっとも綺麗じゃない」
「……そうか。そうだよね」
透花は、いつの間にか笑顔になっていた。
「ありがとう、理玖。なんだか元気が出てきたよ」
「……そう。よかったね」
「うん。未来がどうであれ、今を一生懸命生きようって思えたから」
「それってどういう……」
理玖の言葉を遮るように、透花は立ち上がった。
そして、皆の会話の輪に入っていってしまう。
(……君は、本当にいつも勝手だ)
理玖はため息を一つ吐くと、再び夜空を見上げた。
そこには、先程までと変わらず次々に華が咲いては散っている。
一色隊の夏休みも、あっという間に残り半分を切っていた。
彼らは他に、どのような思い出を作るのだろうか――――――――――。