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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第二十四話 月下美人みたいな君
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秘密保有者たちの会話

①場所取り班の場合


「………………………………」

「………………………………」

「……ねぇ」

「なんすか?」

「……離れてほしいんだけど」


 理玖と颯は、二人でブルーシートの上にいる。

 人混みが苦手な理玖、女性との接触を避けたい颯が場所取りの仕事を任されたのだ。

 読書をしている理玖は、やたらと颯がくっついてくるので困っていた。


「すんません! でも、さっきから女の人が通る度に落ち着かなくて……」

「……隣にいるのは構わないから、少し離れて。暑いし、本が読みづらい」

「はいっす!」


 本当に少しだけ距離をとった颯を見ながら、理玖はため息を吐く。


「……こうなることはわかってたはずなのに、どうしてあんなに乗り気だったわけ」

「だって、夏の思い出が欲しいじゃないすか!」

「思い出なら、充分過ぎるくらいできてるだろう。海に行ったり、向日葵を見たり……」

「そんな、全然足りないっすよ!」


 颯は、いつもよりも落ち着いた表情で話し始める。


「俺、昔の記憶がないじゃないすか」

「……そうだね」

「もちろん、夏の思い出も全然ないんすよ!」

「……うん」

「だから、十五年分は無理でもできるだけたくさん思い出を作りたいっていうか……」

「……そう。君らしいね」

「あざまっす! 最近は記憶を取り戻したいと思ってるんすけど、うまくいかなくて……」


 ここで颯は、自分の額にある刺青をヘアバンドの上から触った。

 必死に隠してきたものだったが、透花と理玖には知られていることが先日発覚したのだ。


「あの、理玖さん。俺のデコのことなんすけど……」

「……どうかしたの」

「透花さんから聞きました。みんなには言わないでくれて、ありがとうございます」

「……別に。顔を洗う時とかも隠してるみたいだったし。言う必要も感じなかったから」


 理玖は、一度瞬きをした。

 彼の瞳は、黒と茶色の中間のような地味な色をしている。

 薬を飲んでこの色にしているが、本来ならば彼の瞳は美しい金色なのだ。


(……それに、誰にでも人に言いたくないことの一つや二つある)


 颯にとって刺青を見せたくないように、理玖にとって瞳は隠したいものだった。

 それを感じ取ったからこそ、言わなかったというのもあるのだろう。


「ほんと助かりました! 自分でもよくわかんないんすけど、なんとなく人には見られたくなくて……。透花さんと理玖さんなら、口が堅いから安心っす!」

「……記憶が戻れば、どうしてそんな場所に刺青を入れたのかわかるんじゃないの」

「そうっすね! 俺、もっともっと頑張りまっす!!」

「……ほどほどにね」

「うっす!!」


 その後、二人の間に会話はなかった。

 理玖は、颯のことなど気にせず読書に戻る。

 颯はその隣で女性が来る度にビクビクしていたのだが、徐々に心に余裕ができて通行人の服装の観察を始めた。

 こうして、思い思いの時間を過ごしたのだった――――――――――。

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