洗っても消えない
「助けて……!」
飛び起きた俺の目に、見慣れた風景が映る。
……そこは、別荘で俺に与えられた部屋だった。
(夢、だったのか……)
さっきまでの出来事が夢だったとわかって、俺はため息を一つ吐いた。
だけど……。
(手を、洗わないと……!)
俺はベッドから下りると、洗面所まで走った。
そして、石鹸でゴシゴシと手を洗う。
……もちろん、夢の中みたいに汚れてるわけじゃない。
だけど、あの感触が離れねーんだ……!
洗っても洗っても、それは残る。
(なんで……!)
何もついてないはずなのに、俺は手を洗うのを止められなかった。
そんな俺の耳に、柔らかな声が届く。
「颯くん、どうしたの?」
「透花さん……!」
俺はそのまま、透花さんに抱き付いた。
透花さんは驚いてたみたいだけど、優しく抱き締め返してくれる。
「颯くん、大丈夫だよ。泣かないで」
「透花さん、俺……! 俺……!」
「落ち着くまで、どこにも行ったりしないから」
「うっす……! ありがとうございます……!!」
……俺は、自分でも気付かない間に泣いてたみたいだ。
透花さんに背中を撫でられると、心が落ち着いていく。
それと同時に、手の感触が薄れるのを感じたんだ――――――――――。