遺却された友達
俺たちは、場所を移動して話すことにした。
同じ階にある、女の客が少ないカフェに入る。
俺に声をかけてきたこいつは、小笠原渉という名前らしい。
俺とは、十年来の付き合いだそうだ。
そう言われれば、なんとなく初対面って感じはしないような……?
俺は、昔の記憶を失ってることを話した。
渉は驚いてたけど、それを聞いてさっきの俺の態度に納得がいったらしい。
「そうか……。だからお前、あんなこと……」
「おう、悪いな!」
「……いや、平気だよ」
「なあ、俺たちってどうやって知り合ったんだ? 家が近くて幼馴染だったとか?」
「……同じ施設で育ったんだ」
「施設? じゃあ、親はいないのか?」
「……さあな。お前のことも自分自身のことも、俺にはわからない」
「そっか! 急にいなくなって、施設の人は心配してなかったか?」
「確かに、探しはしたけど……」
「やっぱりそうだよな! ちゃんと連絡をとって……」
「颯! お前、今幸せか……?」
俺の言葉を遮って渉が絞り出したのは、そんな言葉だった。
俺はそれに、満面の笑みで答える。
「ああ! もちろんだぜ! 記憶を失って倒れてるところを助けてもらってさ!」
「……いい人なんだな」
「おう! すっげーいい人! その人のおかげで、毎日楽しいんだ!」
「……お前、昔はそんな風に笑う奴じゃなかったんだぞ」
「え!? じゃあ、どんな風に笑ってたんだよ!? もっと上品な感じか!?」
「……いや、笑うことすらほとんどなかったよ。今が本当に幸せなんだな……」
そう言うと、渉は少しだけ笑った。
……なんかこいつ、クラスメイトとかと比べると妙に暗いんだよな。
覇気がないっていうか……。
まあ、心みたいに落ち着いた奴もいるから、性格なのかもしんねーけど……。
「……施設には、俺から伝えておくよ。お前は元気に暮らしてるって」
「いいのか!? じゃあ、よろしく頼むぜ!」
「……ああ」
「あっ、よかったら連絡先とか交換しないか? 色々聞いてみたいこともあるし!」
「……いや、それはやめとく。お前はもう、光の下で暮らしてるんだ。俺みたいなのと関わらない方がいい……」
「どういう……」
ここで俺は、自分の通信機が鳴っていることに気付いた。
確認すると、透花さんとの約束の時間は過ぎていて……。
俺は慌てて通信を繋ぐ。
「透花さん、すんませんっす! すっかり時間のこと忘れてて……!」
『大丈夫だよー。今どこにいるの?』
「実は、俺の過去を知ってる奴に偶然会ったんす! それで、話をしてるんすよ!」
『そうだったんだ! じゃあ、ゆっくりでいいよ。お話が終わったらまた連絡ちょうだい』
「え!? いいんすか!?」
『もちろん。だって、こんな偶然滅多にないだろうし。適当に時間つぶしてるから』
「ありがとうございまっす!!!!!」
『いえいえ~。じゃあ、また後でね』
話を終えると、俺は通信を切った。
そんな俺を見て、渉は信じられないという表情をしている。
「お前、女が平気になったのか……?」
「女? ああ、透花さんのことか? 今の人は特別だ! 俺の恩人だからかもしれねーけど、この人だけは平気なんだぜ! それにしても、俺って昔から女が苦手だったんだな!」
「……颯、お前の恩人に会わせてくれ」
「別にいいけど、急にどうした?」
「……いや、昔のお前を知ってる分、平気な女がいるのが信じられなくてさ。どんな人なのか見てみたいっていうか……」
「そういうことか! よし! じゃあ早速行こうぜ!」
俺たちは会計を済ませると、店を出た。
そして透花さんが今いる場所を聞くと、二人でそこまで向かったんだ!