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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第二十一話 カリンの花を君にあげる
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結局僕は、君から離れられないんだ。

 ……お茶でも淹れようかと思ったけど、やめた。

 僕の家には、一人分の食器しかないからだ。

 ……この家に戻ってきて掃除をした時に、自分以外の分は処分してしまったんだった。

 テーブルを挟んで、彼女の向かいに座る。

 ……昔は、少しでも近くにいたくていつも隣に座ってたけどね。

 僕の行動に彼女が少しだけ目を伏せたような気がしたけど、きっと僕の勘違いだろう。


「……理玖、大きくなったね。髪も、すごく伸びた」

「……あれから、何年経ったと思ってるの。そんなこと当たり前だろう」

「……そうだね」

「……思い出話をしに来ただけなら、今すぐ帰ってくれないか」


 僕の口から出た冷たい言葉に、彼女も、僕自身も驚いた。

 まさか僕にこんなことを言われるなんて、思ってもいなかっただろう。

 ……僕も、彼女にこんなこと言う日がくるなんて思ってもみなかった。

 僕の胸の中には、どうしようもない嫉妬心が渦巻いていたんだ。


(君の後ろにいた男は、誰? どうして君と一緒にいるの?)


 ……離れて暮らしていても、彼女にとって特別な男は僕だけだと思い込んでいた。

 僕にとって、特別な存在が彼女だけのように。

 ……思い違いもいいところだ。

 彼女にとって僕は、長い時間の一時を一緒に過ごした存在に過ぎないんだ。


「……理玖に、大切な話があってきたんだよ」

「……なに」

「春から、王都で隊長という立場に就いているの。それで、私の隊に入ってほしくて……」


 彼女の話を要約すると、こういうことだった。

 彼女は数か月前に、王から隊長という立場を授かったらしい。

 隊員に就いては好きに選んでいいと言われたから、僕に声をかけに来たそうだ。


「わがままを言っているのはわかっているのだけれど、理玖さえ嫌じゃなければ……」

「……いいよ」

「え……?」


 ……僕は、即答していた。

 隊員たちは原則的に彼女と一緒に暮らすことになっているが、今はまだ先程の男しかいないので二人で暮らしているそうだ。

 ……こんなことを聞いて、じっとしていられるわけがない。

 彼女の口からその話が出ただけで、僕は頭がおかしくなりそうだ。


「……別にいいって言ってるんだけど」

「……理玖、ありがとう」


 彼女は、柔らかな笑みを浮かべて言う。


(……ああ、僕が大好きな彼女の表情の一つだ)


 しみじみと、そんなことを思った。


「……持ち込みたい資料や植物が多いから、準備に時間はかかるけど」

「いくらでも待つよ。準備、手伝おうか?」

「……いや、大丈夫」


 そう言うと僕は、椅子から立ち上がって自分の部屋に向かう。

 そして、振り返らずに一言だけ彼女に告げた。


「……王都に戻れて、よかったね」

「………………………………!! うん、ありがとう……!」


 こうして僕は、一色隊の隊員になった。

 そして、彼女と暮らす日常を取り戻したのだった――――――――――。

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